結婚願望ゼロのエリート心臓外科医に勢いでプロポーズしたら、なぜか溺愛夫になりました
消えた指輪
「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる。鈴菜も気をつけて」

 玄関のドアに手を伸ばしかけた悠磨は動きを止めこちらを振り向いた。

「忘れ物をした」

「え、お弁当は渡したはず」

 慌てて確認しようとした鈴菜の腰を悠磨はいきなり引き寄せた。

「あ、あの……?」

 つま先立ちになる勢いで近づいた悠磨の顔は今朝もとても整っている。

「忘れてるだろう」

 ニヤリと口の端を上げた悠磨は鈴菜の唇ついばんだ。

「ん……」

(忘れ物って、そういうこと?)

 〝行ってらっしゃいのキス〟だと気づき頬がカッと熱くなる。

 挨拶程度の軽いキスかと思いきや、すぐに終わらない。悠磨は鈴菜の後頭部を掌で固定し、角度を変えたキスを繰り返す。

「んんっ……」

 背筋にゾクリとした感覚が走ると同時に彼の舌が鈴菜の唇を分け入ろうとする。体をビクリと揺らした鈴菜は力の入らない手でなんとか彼の胸を押した。

「……朝するようなキスじゃありません」

 顔を離し、精いっぱい睨みつけるが悠磨は楽しそうに笑うだけだ。

「夜ならいいのか?」

「も、もう! 遅くなりますよ」

「わかったわかった。今日も当直だから充電したかった」
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