結婚願望ゼロのエリート心臓外科医に勢いでプロポーズしたら、なぜか溺愛夫になりました
新婚早々、夫に我慢できなくなりました
 応際大学医学部付属病院。本日二件目の手術を終えた悠磨は手術更衣室で脱衣カゴに青い術着を放り投げ、手早く着替えを済ます。
 長い廊下を進み、白衣を翻しながら考えるのは、今終わった手術のことだ。

 大動脈弁閉鎖不全症の患者に対して、低侵襲心臓外科手術という切開部分が少ない手法を用いた。

(切開は想定より八ミリほど小さくできたし、末梢動静脈の損傷もなかった。だが高齢だから慎重に経過を見ていかなければ)

 医局に足を向けていると、向かいから小柄な男性が歩いてくるのが見えた。

「葛西先生、お疲れさまです」

 近づきながら声をかけると葛西教授は立ち止まる。

「望月先生、お疲れさま。オペだったのかい」

「はいARの患者さんです」

「MICSか。低侵襲心臓手術の技術ではうちで君にかなうドクターはもういないんじゃないか?」

「いえ、僕はまだまだ数をこなしていかなければなりませんから。今日はあと二件オペがあります。次は大動脈弁膜症の――」

 細かい説明を続けようとする悠磨を見上げるようにして、葛西教授はため息をついた。
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