そのままのきみがすき
4、接近
 今週はメールや電話でのやり取りのみで、王子との直接の打ち合わせはなかった。干物化したオフの姿を何度も目撃されていたと判明した手前、取り繕ったようなオンの姿を見られることの方が何となく気まずいと感じていたので、少しホッとした。

 そしてマンションでもバッタリ会う機会もないまま迎えた、再びの土曜日。

 夕方までいつもの休日と変わらない一日を過ごし、さてそろそろスーパーに行こうと玄関を出て鍵をかけようとした時、ドアにメモらしきものが貼られているのに気が付いた。

 それはちょうど私の目線の高さくらいにあり、半分に折られていて書かれた内容は見えないようになっていた。


 『スーパーに行く時は、何時でも良いから遠慮せずちゃんと呼びに来てくださいね。真山』


 訝しみながらもペリッと剥がして中を見てみると、少しクセのある右肩上がりのキレイな字でそう書かれていて。

 なんとなく王子らしい字だなぁと眺めていたら、その下には、おそらく買い物袋をぶら下げて歩く男女の絵。

 おそらく、というのは、その絵がなんというか、とても味のある絵だったからで……。

 いや、ここはもうオブラートに包まずに言おう。

 (……王子って、絵心ない……!)

 思わずふはっ、と笑いが漏れた。

 デザイナーさんでこの画力は大丈夫なのだろうか。それとも彼はwebデザイナーだから、画力はなくても問題ないのか?

 いずれにしても、完璧だと思っていた王子の人間らしいところを、思いがけずまた一つ知ってしまった。
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