そのままのきみがすき
7、雪解け
 SNSの施策やCMの方向性など、チームで活発な意見を交わしながらミーティングを繰り返すうちに着々と固まっていくプロモーション設計。

 金原さんの案は手堅いものから一見突き抜けたものまで、さすがクリエイティブ畑の人と思わせるアイデアで毎回私たちを唸らせている。

  彼とはあれ以来、個人的な話をすることはなかった。

 そんなある日のミーティング終わり、十四時半を回る頃。

 「椿さん。次の予定は何時から?」

 「十五時から、ですが……」

 人のはけ始めたミーティングルームでさり気なく近づいてきた金原さんにそう聞かれ、訝しみながらも答える。

 このあとは、真山さんとの打ち合わせが控えている。

 ── 最近、真山さんとは何となくギクシャクしていた。

 原因はわかっている。私が真山さんを意識し過ぎているからだ。どうしようもなく好きだと認めてしまった上、慰めてくれるためだとはいえ、彼に抱きしめられてしまったから。

 土曜日の屋上。隣から秋風に乗って運ばれてくる彼の香りを感じるたびに、そのことを思い出して挙動不審になる。

 ……それからもう一つ。

 先日の打ち合わせでの真山さんと朝宮さんを見ていて、もし二人に同僚以上の関係があったとしたら、もしくは真山さんに大切にしたい特別な人ができてしまったら。

 私が気持ちを隠し続けていたとしても、いずれあの時間に終止符が打たれる時がくるということに気づいてしまったから。

 ずっとこのままではいられない。なら、いっそのことこの気持ちを伝えてしまう?でも、伝えない方がタイムリミットは伸びる?

 そんなことを悶々と考えていたら、どうしても不自然な態度になってしまうことが増えた。そんな私に真山さんは一見変わらず接してくれているように見えたけれど、最近、どこがとははっきり言えないくらいのわずかな違和感を感じるようになってきて……。

 もしかしたら、そろそろタイムリミットなのかもしれない。

 「じゃあ、その前に十分だけ付き合って」

 その声に、現実に引き戻される。

 「え?」

 「向かいにあるカフェで待ってる」

 「あ、ちょっと……!」

 金原さんは耳元でこそっと囁くと、私の返答を待たずに今日のお見送り担当と一緒に出て行ってしまった。

 「もう……」

 昔から、少し強引なところのある人だった。

 誰にともなく漏れた呟きが、この部屋にまだ残るざわめきの中に消えた。
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