そのままのきみがすき
9、そのままのきみがすき
 真山さんに手を引かれるままたどり着いたのは、カフェのある通りから一本裏に入った人気のない路地だった。

 「── 椿さん。またあの人に、傷つけられたりしませんでしたか」

 そこでようやく私の方を振り返った彼が、私の手はしっかりと握ったまま眉をハの字に下げてそう聞いた。

 ……きっと、心配をかけてしまったんだなぁ、この前私があんな話をしてしまったから。

 「大丈夫です!ちゃんと、決着をつけてきましたから」

 だから真山さんを安心させたい一心で私がそう言うと、彼は一瞬目を眇めた。

 「……決着?」

 「はい。真山さんが理不尽な言葉に傷つかなくていい、怒っていいって教えてくれたので。だからあの時はごめんって謝られましたけど、ちゃんと怒ってきました。これでもう後腐れはないです」

 「……ふ、はは……っ!」

 掴まれていない方の手で握り拳を作り力強くそう言えば、真山さんが急に笑い出した。

 「え⁉︎何か、おかしかったですか……?」

 「はぁ……っ。ううん、もう、すっごい好きって思っただけ」

 「……え?」

 彼が息を吐き出すのと同時にさらりとそんなことを言うから、とっさに言われた言葉の意味が理解できなくて、きょとん、となる。

 「──うん。 椿さんのそういうところ、すごく好きだ」

 愛おしげに目を細めて、もう一度ゆっくりと噛み締めるようにそう繰り返した彼のもう片方の手が、私の頬にそっと触れた。

 握られた手と触れられた頬に優しい温もりを感じながら、さっき真山さんが金原さんに、『これから、そういう関係になれたらいいなと思っています』と言っていたことを不意に思い出した。

 そして今言われたことも合わせて頭がゆっくりとその意味を理解すると、私の顔はこれまでにないくらい朱に染まった。ぼん、と音が出たかもしれない。
< 45 / 49 >

この作品をシェア

pagetop