そのままのきみがすき
2、遭遇
 今日の業務を終えて帰宅すれば、私もようやく〝広報の椿 澄乃〟から解放される。

 季節は九月下旬。少し前まではあった夏の名残もすっかりなくなり、窓を開けただけでそよそよとカーテンを揺らす心地よい風や沈む日の早さにちょっとずつ秋を感じるようになった。

 大学の時から住んでいたワンルームのアパートから三月に引っ越したばかりの、駅から徒歩十五分の1DK。会社までは電車一本で行ける五階建マンションの三階、三〇二号室が私の城。

 程よくトレンドを取り入れたきれいめなオフィスカジュアルを脱いで、着古したパーカーとスウェットパンツに着替える。

 コンタクトを外してブラウンの大きめセルフレームに掛け替えてからヘアアレンジを解き、前髪はアップにしておでこ全開のポンパドールに。メイクも落として出来上がった私の最終形態は、我ながらひどい仕上がり。

 でも、この状態になってようやく私も一息つけるのだ。
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