魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
第一部

1.かくして、婚約破棄は -broken engagement-

(ついに来てしまったのね、この時が……)

 緑あふれる豊かな自然に囲われた、ラッフェンハイム帝国。
 その中心に立つ皇宮の一室で――。

「シルウィー、本日をもって君との婚約は破棄だ。さあ、娘を連れて下がりたまえ、ハクスリンゲン侯爵」

 美しい金髪に氷のような青い瞳の美青年が、きっぱりと宣言した。彼こそがディオニヒト=アランクニス・フォン・ラッフェンハイム殿下。この国の栄えある皇太子様だ。

「無様だこと……」

 そしてその腕に大きな胸を押しつけた妖艶な美女も、こちらをひどく蔑んでいる。
 彼女は、ヴェロニカ・セレーニテ公爵令嬢。豪華なブロンドに金の瞳、赤いドレスの派手な彼女は、この国でもっとも広く信仰される宗教団体――【精霊教会】の巫女様だ。左耳には、その帝国内での絶大な権力を示すように正三角の血のように真っ赤な大粒のルビーが輝き、婚約が破談になったその後釜に彼女が収まるのは間違いないだろう。

 この皇太子様の決断に私――シルウィー・ハクスリンゲンが感じることはといえば、どちらかというと悲しさや悔しさというよりかは、諦めに近い気持ちだった。
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