魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

3.嫌われるようなこと、しましたか -hate myself-

「――はぁ」

 婚約破棄を宣言されて三日。暇だった私は屋敷の自分の部屋で、またもこれまでの人生を思い返していた。
 けれどそれにもすぐに飽き、溜め息をつくと鏡に映る憮然とした表情を見やる。

 先日父に拳で殴られた跡は腫れたままで、蹴りつけられたそこかしこも痣まみれ。でも治る場所でまだよかった。歯が折れたりしなかっただけでも幸いだ。

 鏡越しに見えるのは、どこをどう見たって地味な顔。公爵家の長女として世話されてきたからか、長い黒髪はや肌などはそれなりに整えられているものの、なんせ華がない。

 これで魔力もないとなれば、ヴェロニカのような美人と張り合おうなど、どう考えたって無理だろう。部屋に飾られた肖像画の中の母は匂い立つような美女であるのに、その素養が欠片も受け継がれなかったことを悔やむばかりだ。

 迷信深い父のせいで生まれてこの方切ることを許されず、足元まで伸ばされた重たい黒髪。どんよりとして生気がない黒瞳。母と同じ配色の癖に私はどうしてこうも垢抜けないのやら。
 優しく微笑み、両手を胸の前で握った母の肖像画とじっとにらめっこしていたら、コツコツとノックの音がした。
< 11 / 737 >

この作品をシェア

pagetop