魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

16.別れ -tears-

 扉を開けた後も、私とルシドは血の気の引いた顔でぼんやりとベッドを見つめることしかできなかった。

 ただひとり、テレサだけが駆け出し、縋り付くようにして横たわっているスレイバート様に抱きついた。

「お兄様!」

 スレイバート様は、彫像のように動かないままで……黒く塗りつぶされた半身さえ、今はどこか存在感が薄れているように見えた。
 目を離せば消えてしまいそうなその様子が、今まで見たどんな光景よりも、私の心を締め付ける……。

「お兄様ぁ……目を、目を覚まして……」

 ルシドに背中を押され、心臓が凍り付いたような寒気を感じながらゆっくりとベッドに近づいていくと、うっすらと、その瞳が開いていく……。

「テレサ、か……?」
「はい……」

 掠れ声で答えるテレサの頭を撫でた後、彼の双眼がこちらを向く。その紫の瞳には、いつものような鋭さは見られず、彼は力なく私達に笑いかけた。
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