魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

18.スレイバート・ボースウィン

 ぐっと指を開いた後、手のひらに閉じ込む。胸いっぱいに空気を吸って吐き出す。
 こんななんてことない動作を行う時ですら、以前は大きな倦怠感に苛まれていた。

 それが今やなんともないというのが、喜びを通り越して不思議にすら感じられる。

 呪いがこの身体から離れて数日。それだけの時間がたった今でも俺はまだ、自身の身体に起きたことが信じられずにいる――。

「お兄様、またこちらにいらっしゃったのですか」
「テレサか……。ついな」
「ふふ、大丈夫ですよ。お医者様も、ただ疲れて眠っているだけだと仰っていましたし」
「だな……」

 妹の笑顔に応えると、俺は目の前のベッドで深い眠りに落ちるシルウィーを改めて見つめた。

 テレサが鼻歌交じりで窓際に置かれた花瓶に花を挿し、カーテンを開く。爽やかな香りが風と共に広がり、俺は久しぶりに浴びた日差しに目を細める。
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