魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

4.輿入れの日 -encounter-

 なけなしの財産で形だけ取り繕われたハクスリンゲン家のおんぼろ馬車が、耳障りな音を立てて走っていく。

(うう、寒い……)

 その中で私は両肩を抱えて蹲っていた。
 目的地はラッフェンハイム帝国の北東部、ボースウィン領。そこではどうやら、私の身柄を買った公爵様がお待ちのようで……。
 かろうじて令嬢らしく見えるように身なりを整えられた私は、その場しのぎの日雇いのメイドや護衛達と共に数日前、家から放り出されてしまった。

 もちろん父からの直接の言葉はなく、執事から聞いただけで彼は最後まで顔も見せなかった。
 ボースウィン領は辺境とも言われる厳しい土地柄らしく、近づくたびに馬車内に入る風も冷たくなっていく。出発して二日でようやく折り返しといったところで、薄いケープ一枚で身を包みながらこの後半の道のりを耐えないといけないと思うと、たまったものじゃない。早く今日の宿に着いてほしいと願うばかりだ。

「うふふ、かわいそうにねえ」
「貴族のお嬢様が、魔物も多いあんな厳しい土地で生きていけるのかしら」
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