魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

13.クリム・イシュボア

 イシュボア侯爵様のお屋敷に入るとすぐ、しばらくの間、長い回廊を歩かされることになった。
 でも、私は全然退屈せずに周囲に目を向けていた……それはなぜか。

「わぁ……素敵なコレクション。しかも、みんな同じ画家の作品なんですね」
「あー……まあな」

 ずらりと並んだ絵画たちが、回廊を飾り立てていたからだ。

 女性もいれば、子どもの姿もある。ほとんどが人物画で、そのどれもが柔らかい笑顔で思い思いの方向を向いていた。

(なんだか、どこかで見たことがあったような……)

 その作風にどこか懐かしいものを覚え、私は首を捻る。
 
 絵画に書いてあるサインはすべて同一だったものの、くしゃっと潰れた字で名前も読み取れない。隣のスレイバート様にも尋ねてみたが、彼は「行きゃあ分かる」などといって詳しいことは教えてはくれなかった。

 ゆったりと左右に目を向けながらパーティー会場の広間に行きつくと、オレンジ色の穏やかな明かりに照らされたテーブル群の奥に、山と人だかりができている。
< 351 / 737 >

この作品をシェア

pagetop