魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
5.新たな土地で -unfamiliar-
どうして、こんなことを――。
『ほら、これがお前のお母さんだ。美人だろう?』
今思い出しているのは多分、物心もついかないくらい幼い頃の記憶なのだろう。父の腕に抱きあげられた私は肖像画の中の母と視線を合わしている。
『おかあ、さん……?』
『ああ。ほら、お前と髪と目の色は、この人からもらったんだよ。彼女はこの国で一番気高く美しく、そして強い魔法士だったんだ。お前も将来、この人のようになっておくれ。たくさんの人を幸せにできるようにね』
『しあわせ……』
その意味は幼い私にはずいぶんぼんやりとしていたが、とりあえずこくこくと頷く。
言葉の響きからしてそれが、温かく気持ちよくて安心するようなものなのだろう――というのはなんとなく分かったから。
どうやら記憶はそこまでのようだった。徐々に目の前の肖像画がぼやけてきて、私の身体も宙に投げ出されたような浮遊感を感じ始める。十年以上もの長い時間の中で切り取られた、一分にも満たない、そんな一幕。
『ほら、これがお前のお母さんだ。美人だろう?』
今思い出しているのは多分、物心もついかないくらい幼い頃の記憶なのだろう。父の腕に抱きあげられた私は肖像画の中の母と視線を合わしている。
『おかあ、さん……?』
『ああ。ほら、お前と髪と目の色は、この人からもらったんだよ。彼女はこの国で一番気高く美しく、そして強い魔法士だったんだ。お前も将来、この人のようになっておくれ。たくさんの人を幸せにできるようにね』
『しあわせ……』
その意味は幼い私にはずいぶんぼんやりとしていたが、とりあえずこくこくと頷く。
言葉の響きからしてそれが、温かく気持ちよくて安心するようなものなのだろう――というのはなんとなく分かったから。
どうやら記憶はそこまでのようだった。徐々に目の前の肖像画がぼやけてきて、私の身体も宙に投げ出されたような浮遊感を感じ始める。十年以上もの長い時間の中で切り取られた、一分にも満たない、そんな一幕。