魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

14.穏やかな食事 -daily-

 イシュボア侯爵邸での事件の後、私はレーフェルの街に戻って来ていた。

 身辺の安全を徹底するなら、そのままボースウィン城に留まっていた方が得策だったのだろう。しかし近々、私にどうしても会わせたくない(・・・・・・・・・・・・)来客がお城の方にあるらしく、クラウスさんから追加で数名の護衛を付けていただいて、そのままこちらにて待機することになった。

 本日も営業は再開できず、私は部屋でひとり憂鬱な気持ちを抱えたまま、事件直後の記憶を掘り返している。

 ――事情聴取の際に説明を受けたが、どうやら犯行を行ったあの青年は、正式な招待客ではなくなんらかの手段で屋敷内に忍び込んでいたらしい。

 手がかりは私の見た容姿と、その場に落としていったワインレッドのハンカチのみ。そこには予め所持している人間の位置が分かるような魔法が掛けられていたようで、それを辿って私の前に現れたのだろうということだ。刺繍された【R・R】というイニシャル本人のものなのかは分からないが、それと目撃情報を中心に、近日中に捜索を開始することをクリム様は約束してくれた。

 それにしても、未だに気持ちの混乱が収まらない。あの赤髪の青年は、私に個人的な恨みがあるようだった。どういう経緯で、いつ彼と私は関わったのだろう……。

(……いったい、私の知らないところでなにが起こっているの?)
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