魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~
16.譲れないもの -causal-
勢いよく前のめりになった私の鼻面を抱き止めていたのは、温かく……しかし鋼のように鍛えられた胸板。
「髪……切っちまったな。後で謝る」
「えっ……? あ、いえ……」
そんな囁きにハッとして、ずいぶんと軽くなった後ろ頭に手をやる私だったが、今はそんな場合じゃない。
「下がってろ」
スレイバート様はとんと私の背中を押して、涙に濡れた目を見開いているテレサの方に追いやった。だがその声音に、私はぞくりと背中が粟立つ。いつもよりも数段低く、押し殺した声から感じたのは、今まで彼が私に見せたりしたものとは一線を画す、深く……激しい怒り。
だが……もちろん皇太子様の方も、その行動に黙ってはいない。その手に握る私の残り髪を燃やし払うと、スレイバート様を強く糾弾する。
「忘れもせぬその銀の髪……忌々しい! 時代遅れの古城で静かに息を絶やしておればよかったものを……生き永らえた上、私の邪魔をしに来たか! スレイバート・ボースウィン!」
「……ずいぶん好き勝手やってくれたな」
「髪……切っちまったな。後で謝る」
「えっ……? あ、いえ……」
そんな囁きにハッとして、ずいぶんと軽くなった後ろ頭に手をやる私だったが、今はそんな場合じゃない。
「下がってろ」
スレイバート様はとんと私の背中を押して、涙に濡れた目を見開いているテレサの方に追いやった。だがその声音に、私はぞくりと背中が粟立つ。いつもよりも数段低く、押し殺した声から感じたのは、今まで彼が私に見せたりしたものとは一線を画す、深く……激しい怒り。
だが……もちろん皇太子様の方も、その行動に黙ってはいない。その手に握る私の残り髪を燃やし払うと、スレイバート様を強く糾弾する。
「忘れもせぬその銀の髪……忌々しい! 時代遅れの古城で静かに息を絶やしておればよかったものを……生き永らえた上、私の邪魔をしに来たか! スレイバート・ボースウィン!」
「……ずいぶん好き勝手やってくれたな」