魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

18.遠回りの恋心 -beginning-

 空が白け、輪郭がはっきりとしてきた付近の村々で、鶏の鳴く声が響き出す頃。

「ふう……」

 今日も俺は剣を下ろすと、日課となっている鍛錬を終わらせた。

(大体元には戻ったか……)

 呪いの受ける以前の状態にまで体力が回復したのを感じ、俺はわずかに安堵した。これでもし、ボースウィン領が何者かから侵略されるようなことがあっても、最後まで戦い抜けるはずだ。城の屋上から引き揚げ、汗を流して着替えた俺は執務室へと移動する。

「おはようございます、閣下」

 するとそこでは、いつも通りクラウスがペンを動かしており、見慣れたリズムで律儀に頭を下げてくる。(たゆ)まない日々の努力がなんとも頼もしい。

「ああ。お前はいつだって仕事してんな。たまには休みたくならねーのか?」
「趣味なんですよ。それに私は閣下やテレサ様と違って魔法はからきしですので、その分他で働きませんとね」
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