魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

4.束の間の休暇 -kindness-

 実家を出てから馬車で出掛けることが多くなったせいか、ようやくその楽しみ方が私にも分かってきたように思う。

 規則正しいぽくぽくと響く足音と共に、ゆっくりと過ぎ去ってゆく景色を眺めながら同乗者とお喋りをしていれば――目的地まではあっという間だ。公家の馬車は揺れも少なく、広々としていて、不自由を感じることはほとんどない。

 テレサとは女の子同士話が弾み……クラウスさんもやや仕事中毒(ワーカホリック)であることを除けば、紳士的かつ物知りな方だから、彼しか知らないボースウィン領のこぼれ話をたくさん聞かせてくれる。

 道中でいくつかの街に立ち寄り、ショッピングも楽しんだ。テレサとお揃いの、寒い地方では便利な魔物の毛で織られた耐寒性の高いブーツに、雪に翳せばぎゅっと圧縮して氷に変えてくれるステッキ型の魔道具など。これで冬場に大量に氷を作って洞窟や倉庫に集めておけば、夏場には色んな用途で使い道があるのだとか。北国ならではの知恵は新鮮だ。

 今の気候は旅をするにはちょうどよく、しばしば私たちは肩を寄せ合い車内で眠りこけてしまった。そんなふたりを、クラウスさんは本を読みながら見守ってくれていたようで――。

 他にも休憩地点の村で風景をスケッチしたり、湖の貸しボートに乗せてもらったり、護衛の人たち談笑しながら軽い食事を楽しんだりと……本当に心休まる旅路だった。
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