魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

16.明日へと向かう疾行 -spurt-

 手厚く歓迎してくれたあの宿から発つと、私たちはさらに西進し、いくつかの街を通りすがりつつ、リュドベルク城を目指していった。城に近づくたびに人の気配は無くなり、放棄された村なども多くみられる。

 こちらは北国のボースウィン領と違って、ずいぶん自然豊かな土地のようだ。平野や森が多めで、道中にも図鑑でしか見たことのない動植物が数多く存在している。

 甘い匂いで引き寄せた獣たちに、風船のように膨らんだ実を割らせて中身の種を遠くに飛ばす玉破草(たまわりそう)
 夜間になると特殊な粘液が分泌されて、花びらに妖しげな紫色の火を灯す冥霊花(めいれいか)
 これは魔物だけど、空を見上げれば四つ足についた小さな羽で空を滑るように駆けていく空滑狼(グライドウルフ)などの姿も見られた。
 時間があればじっくりと観光していきたいくらいだけれど、そうも言ってられない。

「へぇ、あんたがいてくれりゃ、本当に瘴気に怯える必要はねえんだな……」

 そろそろ瘴気も無視できない濃度になり、御者台に出てきた私が両手を組んで周りの瘴気を取り込んでいると、隣からラルフさんが不思議そうに見つめてくる。

「限度がないってわけではないですけれど……この力にもずいぶん慣れてきました。多分、一日くらいなら瘴気の吸収を続けられるかと思います」
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