魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

18.それぞれの最善を -trust-

 どんどん荒くなる息遣いが、それなりの時間が経過したことと、私たちの焦りを知らせる中――。

「ちくしょう……倒しても倒してもっ、キリが……ねえぜ」
「はぁ、はぁ……」
「シルウィー、戦闘中はなるべく安全な壁際で体力を温存してろ。おいボンクラ、妹の部屋にはまだ着かねえのか。そろそろ下では魔物達が渋滞してやがんぞ」

 蔓人形たちの再生能力は凄まじく、しかも焼いても凍らしても追加で湧いてくる。
 途中からふたりは戦闘方法を切り替え、なるべく行動不能に追い込むだけにして、上がってきた階段を氷で封鎖しこの階まで上がってきた。

 それでも、百体を越えるほどの魔物の群れの相手をして、ラルフさんはもうふらふらだ。普段疲れを見せることのないスレイバート様の額からも、一筋の汗が流れている。

 かくいう私も周りの瘴気を取り払っているだけなのに、言葉を放つことすら遠慮したいこの息苦しさが、緊張による体力の消耗具合がいかに激しいかを物語っている。石壁を背中に付けると、冷たさが気持ちよく、その場にへたり込んでしまいそうだ。

「でも、もうここまでくりゃあ後は廊下を突っ切るだけだ。あの曲がり角を向かった奥が、カヤの部屋になってる」
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