魔力を喪った賢者の娘は、とある帝国公爵の呪いを解いてあげたのです……が? ~傾く領地を立て直したら、彼が私に傾いてきた~

8.いけ好かない人 -cynical-

 見晴らしのいい丘に辿り着くと、スレイバート様は後ろに必死にしがみ付いていた私を、乗っていた馬からようやく降ろしてくれた。

 直接馬の背中に跨ったことはない私なので、意外と乗馬というのは大変なものなのだと疲れた内股を震わせていると、スレイバート様はマントの留め金を外し、こちらに放ってくる。

「寒いだろ、羽織って適当に座ってろ。俺は馬の世話をしてくる」
「あ、ありがとうございます」

 彼は馬の(くつわ)を引いて、近くにあった湖に連れていった。雪国の馬は大きくて優しそうだなぁと思いながら、私は近くの花畑の上に腰を下ろす。すると指先ほどの、小さな白い花が手に触れた。

 寒さにも負けずこうして咲いているその健気さと可愛らしさに目を細めた後、私は少し離れたところで馬にブラシをかけるスレイバート様の姿に目を向けた。

(綺麗……)
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