拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく
プロローグ
【ヴィラ歴423年10月】
昼下がりのダイナー公爵家。
若き公爵──バナージ・ダイナーは机をコツコツと人差し指で叩いていた。
待っている手紙が来ないのだ。
(遅い。フィーヌは一体、何をしているんだ)
ここ数年、バナージの実家であるダイナー公爵家の主力事業である金鉱石の掘削が上手くいかなくなっている。
負債か嵩みダイナー公爵家が破産するのではないかと危惧したバナージが目を付けたのは、かつての婚約者──フィーヌだ。
フィーヌは『土の声を聴ける』という特殊なスキルを持っている。故に、フィーヌであればこの窮地をなんとかできるはずなのだ。
脳裏に蘇るのは、かつて自分の婚約者だった、艶やかな赤茶色の髪をした大人しい女だ。
顔は美人だったが、バナージがどんなに無礼なことを言っても困ったように笑っているだけの面白みのない女だった。それに、婚約しているにもかかわらず決してバナージと一線を越えようとしないのも気に入らなかった。
だから、バナージから捨ててやった。
昼下がりのダイナー公爵家。
若き公爵──バナージ・ダイナーは机をコツコツと人差し指で叩いていた。
待っている手紙が来ないのだ。
(遅い。フィーヌは一体、何をしているんだ)
ここ数年、バナージの実家であるダイナー公爵家の主力事業である金鉱石の掘削が上手くいかなくなっている。
負債か嵩みダイナー公爵家が破産するのではないかと危惧したバナージが目を付けたのは、かつての婚約者──フィーヌだ。
フィーヌは『土の声を聴ける』という特殊なスキルを持っている。故に、フィーヌであればこの窮地をなんとかできるはずなのだ。
脳裏に蘇るのは、かつて自分の婚約者だった、艶やかな赤茶色の髪をした大人しい女だ。
顔は美人だったが、バナージがどんなに無礼なことを言っても困ったように笑っているだけの面白みのない女だった。それに、婚約しているにもかかわらず決してバナージと一線を越えようとしないのも気に入らなかった。
だから、バナージから捨ててやった。
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