拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

第七章 夫婦関係の変化



【ヴィラ歴423年4月】

 月日は流れ、フィーヌがロサイダー領に嫁いで二年が経とうとしていた。
 この二年間の変化といえば、長く病床に伏していたダイナー公爵が亡くなり、バナージがそのあとを継いだ。そして、故ダイナー公爵の死後まもなくして、ダイナー公爵家で鉱山管理人をしていたロバートが辞任してフィーヌのいるロサイダー辺境伯家に転職して来てくれた。

 鉱山開発から鉱石の流通まで全てを知っているロバートが来てくれたことは、ロサイダー辺境伯家にとって非常に大きかった。
 彼が旧知の人脈や伝手でビジネスを軌道に乗せ、今やロサイダー領はヴィットーレ有数の豊かな地域に変貌していた。

 
 
 フィーヌは朝のまどろみの中、ゆっくりと目を開ける。
 目に入ったのは彫刻のように凛々しい男性──ホークの寝顔だ。

(きれいな顔……)

 フィーヌはしばしの間、彼の寝顔を見惚れる。
 
 触れれば噛みつかれそうな危険な香りを纏うホークは、いつの日か美術館で見た石像の闘神のようだ。
 だからこそ、ふわりと微笑んで凛々しい彼の表情が崩れる姿を見るたび、フィーヌはそれをとても特別なものに感じた。

「きみは俺の寝顔を眺めるのが好きだな」

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