拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

第一章 舞踏会で部屋に閉じ込められました

【ヴィラ歴421年6月】
 
 王都にあるダイナー公爵邸。
 華やかな舞踏会の片隅で、ショット侯爵令嬢のフィーヌは困り果てていた。休憩室のドアが開かないのだ。

「開かないわ。どうしてかしら?」
「ドアを壊すことならできるが?」
「それもどうかと思います」

 フィーヌは首を横に振る。
 木製なのでいざとなったら力任せに開けることもできるだろうが、ドアはバキバキに壊れてしまう。ひと様の屋敷のドアを破壊するのは気が引ける。

「では、どうしようもないな」

 はあっと嘆息したのはフィーヌと一緒に部屋に閉じ込められている、ロサイダー辺境伯のホーク・ロサイダー──長身に黒髪、引き締まった体躯の美丈夫だ。

「失礼だが、貴女はどうしてここに? 体調が悪かったのか?」
「舞踏会に参加中、ドレスの後ろが着崩れていると教えられたのです。直すのにここの部屋を使っていいと聞いたから入室したら、あなたがいたわ」
「なるほど。そういうことか」

 ホークは頷く。

「そういうあなたは、なぜここに?」

 フィーヌはホークに聞き返す。
 ホークの様子は体調不良とは程遠い。かと言って女性を連れ込んでいるわけでもない。
 
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