拝啓、元婚約者様 捨てた私のことはお構いなく

第五章 フィーヌの神恵


第五章 フィーヌの神恵

【ヴィラ歴421年12月】

 フィーヌがヴァルの力を借りてロサイダー領の土壌を改良してから二カ月が経ち、屋敷のそこかしこに植えた苗はしっかりと根付き、花を付け始めていた。

「パンジーを選んだのは正解だったわ。こんなに早く花が咲くのを見られるなんて」

 屋敷の周りを散歩しながら、フィーヌは顔をほころばせる。
 ほんのちょっとの差なのだけれど、花があるのとないのでは散歩しているときの心の潤いが違う。

「おーい、フィーヌ!」

 ふと呼び声がしてフィーヌは振り返る。そこには、ヴァルがいた。

「あら、ヴァル。ねえ見て。ヴァルのおかげでこんなに奇麗に花が咲いたわ」
「フィーヌのためならお安い御用さ」

 ヴァルは得意げだ。

「ところで、今日はどうしたの?」
「前に言ってた金鉱山、そろそろ採れなくなってきてるぜ」
「ダイナー公爵領のリリト金山?」
「それそれ」

 ヴァルは頷く。
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