それが例え偽りの愛だとしても

第2章 偽りの花嫁

家の中へ足を踏み入れると、思わず圧倒された。

さすがは名家・矢井田家。

重厚な扉の先には、贅を尽くした洋間が広がっていた。

大きなシャンデリア。

一面に敷かれた深紅の絨毯。

壁に飾られた油彩画に、天井の意匠。

まるで、どこかの迎賓館にでも来たかのようだった。

その部屋には、すでに多くの人が集まっていた。

矢井田家の親戚や、真人様のご友人。

正装に身を包んだ人々のなかに、私の両親の姿も見えた。

母は静かに微笑み、父はどこか誇らしげな顔をしていた。

——その表情を見るたびに、「私は正妻の娘じゃないのに」と、胸の奥が少しずつ締めつけられる。

けれど今だけは、その嘘さえも、祝福の中に溶けていくようだった。

「この度は、息子・真人と、中林家ご令嬢・沙奈さんの婚礼にお集まりいただき、誠にありがとうございます。」
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