一途な陸上自衛官は、運命が引き寄せた恋を守り抜く〜秘密の双子ごと愛されています〜
1、カモフラの人
業務用の大きな鍋には、具だくさんの豚汁が湯気を上げている。
簡易容器のお椀によそい、一緒におにぎりをつけて手渡していく。
「ありがとう!」
母親と並んでいた未就学児の女の子が、にっこり笑顔を浮かべて私の手からおにぎりを受け取った。
「たくさん食べてね。豚汁も、おかわりしにきてね」
「はーい!」
日に日に人々の顔に笑みが浮かんでいくのを実感しながらも、ふと見渡せばあちこちに崩壊した家屋が目に入る現実。
ここにいるすべての人たちが心からの笑顔を浮かべられるようになるのは、まだまだ先になるだろう。
半月ほど前、北関東を震源とする直下型地震が起こった。
最大震度六強の地震は、多数の建物を倒壊させ、死者負傷者を出し、多くの人々の生活を混乱させた。
私──冴島希穂の実家が、この地震によって被災した。
幸い、実家の戸建は倒壊することはなく住んでいる母は無事だったが、実家近くに別に住んでいる姉家族のアパートは倒壊。
ちょうど地震発生時の午前十時過ぎは姉とふたりの子どもたちは仕事と学校に出ていて、倒壊したアパートの下敷きにはならなかった。
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