一途な陸上自衛官は、運命が引き寄せた恋を守り抜く〜秘密の双子ごと愛されています〜
8、宿った生命と決意と
寒さに震える時期を越え、季節は三月を迎えた。
厚手のコートから少し軽やかなジャケットで通勤できる今日この頃。
今朝も、家から駅までの道のりで毎年見物させてもらっている立派なミモザの木が、こぼれ落ちそうなほどきれいな黄色い花を咲かせているのを目にした。暖かい春も目前だ。
「駐屯地は久々だな~」
運転席でハンドルを握る長谷川さんが独り言を呟く。
フロントガラスの向こうには広い敷地を誇る練馬駐屯地が見えてくる。
わずかに気持ちが落ち着かなくなってきて、長谷川さんに気づかれないように大きく深呼吸をした。
勇信さんは、今ここに戻ってきているのかな……? それともまだ、派遣先なのか……。
もう自分には考える必要のないことを自然と考えていた。
忘れなくてはならない。
ここ二か月、ほとんど毎日のように自分に言い聞かせている。
でも、そんな簡単ではない。機械のように、削除すればそれできれいさっぱり消えてしまうならどれだけ楽だろうと何度も思った。人間は単純ではない。
新年に会ったあの日以降、勇信さんと連絡をとることはなかった。
あの日散々泣いて、何度も何度も最後のメッセージを考えた。
作っては消し、作っては消しを繰り返し、やっとできたメッセージは送信するのを躊躇わせた。