甘恋、ひとさじ。~和菓子屋の娘はホテル王に囲われています~

第六章

数日後のある日――。

「本当に申し訳ない」

木谷さんの父親であり木谷ホステルの社長が浅見屋にやって来て、祖父母と私の目の前で深々と頭を下げた。

「なんとお詫び申しあげたらいいか……」

木谷社長は後ろに撫でつけた白髪交じりの髪の毛に、キリッとした相貌で話していても理解の早い常識人だった。息子とは大違いだ。そんな社長も今は眉尻を下げ、自分の息子の勝手な行動に戸惑いを隠せない様子だった。

「この店がなくなっても、うちの孫に何かあったら! あんた、どうしてくれるんだ!」

祖父は職人気質の強面だけど、根は優しいし律儀な性格だ。でも、こんなに顔を真っ赤にして怒鳴っている祖父を見たのは初めてだった。

「後日改めて息子からも直接謝罪をさせますので……」

ひたすら平謝りする木谷社長は当然、なにも悪くない。いい歳した大人の親がこうして他人に頭を下げなければならないことを思うと、なんだか気の毒に思えてきた。
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