甘恋、ひとさじ。~和菓子屋の娘はホテル王に囲われています~

第四章

週末。十九時。

あぁ、ダメだ、緊張する!

ついにこの日がやってきてしまった。

「小春、大丈夫か? 何か飲み物でも買ってくるか?」

木谷さんに私の夫である高城湊さんを紹介するため、そして店の立ち退きの件と結婚の申し入れをお断りするため、私は高城さんと一緒に今、木谷ホステルのエントランス前に来ていた。

「大丈夫です。もうさっきから水ばかり飲んでるので」

そうは言ってもやはり緊張して喉の内側がはりつきそうだ。木谷さんに何を言われるか、高城さんに迷惑をかけるんじゃないか、あれこれ考えるけれどもうキリがない。

「それ、つけてきてくれたんだな、似合ってるよ」

今日は先日、高城さんからプレゼントしてもらったダイヤのネックレスを身に着けてきた。これがあるとなんとなく彼に守られているような気になれる。私の胸元で輝いていることに気が付いた高城さんがにこりと微笑む。その笑顔に私も自然と笑みがこぼれた。

木谷ホステルは高城クラウンホテルズよりも歴史が浅い。かといって人気が劣るわけでもなく、西の高城、東の木谷と言われるほど両者はライバル関係でもある。

木谷ホステルの建物はどの雑誌やテレビなどでもまずピラミッド型の頭頂部が特徴的で、必ずその画像が紹介される。元々、創業者である木谷さんの祖父が建築家出身で、こういう造りの設計にしたらしい。
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