メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
プロローグ メシマズ女
「お前のメシはマズすぎるんだよ!」
怒声とともにテーブルの料理がなぎ払われ、比江島陽音はびくっと身をすくませた。
「ごめんなさい……」
謝る声は消え入るように小さい。
仕事を終えたあと、急いで須藤淳太のアパートに来て合鍵で入り、彼の大好きな唐揚げを作った。味は濃いめで、ポテトも揚げた。
野菜嫌いな彼でも食べやすいように野菜チップも作ったが、それがいけなかった。
帰って来た彼は、野菜チップに怒り、すべてを薙ぎ払ったのだ。
何度目だろう。
陽音は涙を浮かべて床に落ちた唐揚げや割れた皿の破片を眺める。
以前は「こんなマズい料理、俺しか食えねーぞ」と言いながらも食べてくれた。料理の腕を上げたくて料理教室に通ったが、文句は増えるばかりだった。雑穀米は鳥の餌、サラダは兎の餌と罵られ、目の前で捨てられたこともあった。
グルメ情報サイト『グルメーズ』の会社で働いているから舌が肥えているのだろう。そう思って工夫を続けたが、無駄だった。
自分で味見をしても、おかしいとは思えない。彼に「味覚障害だろ」と言われたから病院で検査を受けたが、異常はなかった。申し訳ないから料理をやめたいと言ったら「向上心がない!」と怒られた。
苦しいし、つらかった。
それでも淳太にすがった。
二十九歳の現在、両親はすでに他界しており、親戚づきあいもなかったから陽音に頼れる人はいない。彼に友人関係を制限されたため、友達との縁もほぼ切れている。
彼だけがよすがだった。結婚しよう。そう言ってくれたから頑張って来た。おいしい料理を作れたら、優しい彼に戻ると信じていた。
なのに。
怒声とともにテーブルの料理がなぎ払われ、比江島陽音はびくっと身をすくませた。
「ごめんなさい……」
謝る声は消え入るように小さい。
仕事を終えたあと、急いで須藤淳太のアパートに来て合鍵で入り、彼の大好きな唐揚げを作った。味は濃いめで、ポテトも揚げた。
野菜嫌いな彼でも食べやすいように野菜チップも作ったが、それがいけなかった。
帰って来た彼は、野菜チップに怒り、すべてを薙ぎ払ったのだ。
何度目だろう。
陽音は涙を浮かべて床に落ちた唐揚げや割れた皿の破片を眺める。
以前は「こんなマズい料理、俺しか食えねーぞ」と言いながらも食べてくれた。料理の腕を上げたくて料理教室に通ったが、文句は増えるばかりだった。雑穀米は鳥の餌、サラダは兎の餌と罵られ、目の前で捨てられたこともあった。
グルメ情報サイト『グルメーズ』の会社で働いているから舌が肥えているのだろう。そう思って工夫を続けたが、無駄だった。
自分で味見をしても、おかしいとは思えない。彼に「味覚障害だろ」と言われたから病院で検査を受けたが、異常はなかった。申し訳ないから料理をやめたいと言ったら「向上心がない!」と怒られた。
苦しいし、つらかった。
それでも淳太にすがった。
二十九歳の現在、両親はすでに他界しており、親戚づきあいもなかったから陽音に頼れる人はいない。彼に友人関係を制限されたため、友達との縁もほぼ切れている。
彼だけがよすがだった。結婚しよう。そう言ってくれたから頑張って来た。おいしい料理を作れたら、優しい彼に戻ると信じていた。
なのに。
< 1 / 51 >