メシマズな彼女はイケメンシェフに溺愛される
エピローグ メシマズ返上
オーダーストップの八時半になり、陽音は店の外に出た。冷たい風が吹き、ぶるっと体を震わせる。
すでに冬。見上げた夜空には白い月があり、澄んだ光を投げかけていた。
乃蒼みたいに優しい光ね。
陽音は微笑をこぼして看板を片付け、ドアの札を『fermé(閉店)』にした。
店内にはまだ修造と絢子が残り、食後のワインをボトルで楽しんでいる。
「もう閉店だろ。おふたりさんもどうよ、俺のおごり」
ごきげんな修造の言葉に乃蒼を見ると、彼は優しく頷いた。
「では、お言葉に甘えて」
ワイングラスをふたつ持ち、コックコートのまま厨房から出る。
ワインを注いでもらうと、陽音と乃蒼はテーブル席に座った。
「お土産もらっちゃって、ありがとね」
絢子が紙袋を掲げ、礼を言う。
「しばらくお店を閉めてご迷惑をおかけしたので。すみませんでした」
陽音が謝ると、絢子はひらひらと手を振った。
「いいのよ、遅ればせながらの新婚旅行だったんでしょ?」
「いいなあ、ヨーロッパ一周」
絢子に続いて修造が嘆息する。
「だけど大変だったわねえ。グルメーズのレビューが荒れたあと、ひと騒動だったんでしょ?」
「そうですね」
陽音は絢子に頷いた。