落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

1 見習い聖女アイリス

 びしゃっん、ガラガラァ――ンッ!!

 神聖な空気を纏う礼拝堂に似つかわしくない、荒々しい音が響き渡った。

 私は雑巾で床を拭いていた手を止め、音のした方へ振り返る。
 そこに立っていたのは聖女シャーロット・ケーシー様だった。両隣には彼女の取り巻きをしている見習い聖女の二人もいる。

「なにか足に当たったみたいですわ。何かしら? おかしいですわねぇ」

「シャーロット様……」

 シャーロット様の足元には木製のバケツが転がり、さっき磨き上げたばかりの床は水浸しになっていた。

 わざと蹴ったくせに、よく言うわ……。

 大きく溜息をついて立ち上がると、シャーロット様と目が合った。

「あら、見習い聖女のアイリスじゃない。どこの幼児が迷い込んでるのかと思いましたわ、うふふっ」

「ふふっ、幼児ですって」
「本当ですわね〜」

 シャーロット様が小馬鹿にしたように笑うと、取り巻き達も一緒になって笑った。

 錆びついたような赤毛に黒い瞳で、チビで幼児体型な私。
 一方シャーロット様は碧い瞳に色白の肌、長く美しいブロンドの髪で、目を引くような華やかで妖艶な美女だった。
 白を基調とした清廉な聖女服を着ているのにもかかわらず、どこからか色気が溢れ出ている。

 ちなみに見習い聖女は黒い聖女服を着ることになっているが、私が着ると重く、野暮ったく見えてしまうのが悩みだ。
 同じ十八歳なのに、どうしてこうも違うんだろう……。
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