落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

29 大切な人を救うために

 あれから何回か聖魔石に魔力を注ごうと試みたが、どうやっても魔力を感じることはできなかった。やっぱり私は魔力を失ってしまったのかもしれない。

 気持ちの整理が追いつかないまま、日々の雑務に追われていた。買い出しのお手伝いも行く気にはなれず、ハンナさんには忙しくて行けないと伝えた。

 ライオネル様に会うのが怖い。
 魔力を失ったことを知られたら幻滅されてしまうのではないかと、ぐるぐると不安が駆け巡る。
 まだ大聖女様からお話はないが、きっと近いうちに神殿を出ていかなくてはならないだろう。そうしたら、もう会うこともできなくなるかもしれないのに……。
 

 夜、寝支度を整え、ランプを消すと一瞬で闇に包まれる。
 このところ一人になると、涙が止まらなくなる。八年前にこの神殿にやって来た頃のようだ。

 夜鳥の声以外聞こえないはずの夜の神殿は、今夜はどこか違っている。本殿の方が騒がしく、点々と光も見える。

「どうしたんだろ?」

 何かあったのかもしれない。胸騒ぎを覚えて、私は聖女服に着替え本殿の方に向かった。


 神殿の処置室に向かう廊下は騒然としている。 

「処置室はもう満室ですっ」
「じゃあ怪我人をこちらへ運んで!」
「手の空いてる聖女はこちらにっ」

 神殿に次々と負傷した騎士様が運び込まれてくる。
 処置室に入りきれない人達は、廊下にもズラリと寝かされていて聖女達が回復魔法を行っていた。
 怪我を負った騎士様の様子を見ると、爪で引っ掻いたような傷跡だった。

 これって魔物の傷? 

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