落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

32 夜会の準備は忙しい

 嘘……、これが私……?

 縁に装飾が施された全身鏡に、見慣れない自分の姿が映っている。
 幾重にもレースが重ねられた光沢のある白いロングドレスに、手には白のオペラグローブをはめ、少し開いた首元には控えめながらも上品なパールのネックレスが輝いている。髪は編み込んで結い上げられ、長く垂らしたサイドの髪はゆるりとウェーブしている。

 化粧を施されドレスを身に纏った私は、田舎の娘ではなくそれなりの身分のお嬢様に見えた。
 このドレスもアクセサリーも、今夜の夜会の為に神官長様が用意してくれた物だ。

「アイリス様、とっても素敵ですわ! 美しいだけでなく、まるで女神様のような神々しさも感じます!」

 エリゼが瞳をキラキラ輝かせ称賛の言葉をかけてくれるが、恐縮してしまう。

「ありがとう、エリゼ。でも女神様はちょっと言い過ぎだと思うけど……。手伝ってくれた皆の腕が良かったんだよ。皆もありがとう」

 夜会に参加するにあたって、着替えや化粧など準備を手伝ってくれたナタリーや、他の使用人の皆にお礼を言った。

「いいえ、私達はアイリス様の元々の美しさを引き出したに過ぎません! 自信を持ってください!」

「ありがとう……」

 この部屋は最近移ってきたばかりの聖女用の部屋で、今まで居た年季の入った使用人用の部屋とは比べ物にならないくらい豪華だった。部屋の広さも一人部屋なのに今までの四倍以上はあり、空間を持て余している。

 コンコンッと、ドアがノックされる。

「はい、どうぞ」


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