落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

4 兄と妹(1)

 自由時間になり、買い出しに行こうと神殿の裏門に行くと、そこには珍しい人が立っていた。

「あれ? エリゼ?」

 シンプルだけど上質そうな淡いピンクのワンピースを纏ったエリゼは、天使が舞い降りてきたのかと思うほどの可愛さだ。

「アイリスはどちらへ?」

「ハンナさんのお使いで市場に行くところなの。エリゼも街に?」

「はい。私も市場に」

「そうなんだ……え!? 市場に!?」

 私は驚いて声を上げてしまった。公爵令嬢が市場に行くってどういうことなんだろう。

「あの、実は前々から行ってみたいと思っていたのですが、兄に反対されてまして。市場には危険がいっぱいだから、護衛がいたとしても決して行くなと」

 そりゃ、そうよ。エリゼのお兄さんの言う通り。私なんてスリにあったばかりなんだから。こんな可愛いエリゼなら誘拐されてしまうわ。エリゼの話を聞きながら、心の中で頷いてしまう。

「兄と一緒に行くという条件で、やっと許可をいただけたんです。今、兄を待っていますの」

 エリゼは嬉しそうに笑った。市場のどこが気になったのか分からないが……。エリゼがこんなに楽しみにしていたんだから、願いが叶って良かったと私も嬉しく思った。

「そうなんだ。良かったね。それじゃ、私は先に行くね」

「あ、アイリス。良かったら一緒に行きましょう? そろそろ兄も来ますわ」

「え? でも……」

 エリゼの誘いは嬉しいけど、エリゼの兄ってことは公爵家のご子息様で、私が簡単にお会いしていい方ではない……よね? どう断ろうと考えを巡らせていると、

「エリゼ、待たせたな」

 どこか聞き覚えのある低めの美声が聞こえた。
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