落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

10 ライオネル様と大聖女様

 神殿を訪れた患者様を処置室に案内したり、処置室の掃除や、シーツの洗濯など、私は忙しく動き回っていた。
 処置室に置かれた水樽の中を覗くと、泉水の量が残り少ない。
 泉水とは神殿の中庭にある泉から湧き出る水で、そこに回復魔法をかけると聖水に変化する。その聖水を飲めば、少々の体調不良は治すことができる。

「泉水、汲んでこないといけないわ」

 私は大きな水桶を手押し車に乗せ、太い円柱が並ぶ回廊をガラガラと押しながら歩いていく。
 木々が生い茂る中庭の中心にある小さな泉に到着した。水面はプクプクと泡立ち、清涼な水音が響いている。
 王都内の湧き水の中で聖水に変化するのはこの泉だけで、それがこの場所に神殿を建てたきっかけになったらしい。

 私はバケツで泉水を水桶の中に掬い入れた。泉水をこの水桶いっぱいに汲み、それを処置室まで何回も運ばないといけない。結構体力のいる仕事だ。

「あれ? アイリス様、泉水汲んでるんですか?」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、神殿の使用人をしているナタリーだった。彼女は回廊の柱の間からバケツと箒を持って覗き込んでいた。

「うん、そうなの」

「じゃあ私も汲むの手伝いますね!」
 
 ナタリーはそう言うと、中庭に入ってきた。

「ありがとう。でも仕事はいいの?」

「はい。今日は早く終わったんで大丈夫ですよー」

 彼女は持っていたバケツで泉水を掬い、水桶に入れ始めた。
 ナタリーは二つ年上で使用人の中で一番年が近いのもあり、仲良くしてもらっている。
 彼女は男爵家のご令嬢なので、敬語でなくてもいいと言ったが、聖女様に無礼なことはできないと断られてしまった。ブロンドのショートヘアでスラッとした細身の明るい女性だ。

「ちょっと聞いてくださいよ、アイリス様!」
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