落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

15 神殿の前で

 調理場から出たところで、私は溜息をついた。

「はぁ、今日は買い出しは無しかぁ」

 ハンナさんに今日の買い出しは無いと言われてしまった。モヤモヤしたような寂しいような気持ちが襲う。
 私ってこんなに買い出しを楽しみにしてたのかな。今日はライオネル様に会えないんだなって、ちょっと残念に思ったのは確かだけど。

 神殿の廊下を歩いていると、格子窓の外に見える正門が騒がしい。一般の診療の時間はもう閉めた後だ。

「どうしたんだろ?」

 私は急いで正門に向かった。


 正門では門番と平民らしい中年の男性が言い争いをしていた。

「ここを通せ! 中に入れろ! もう一度治療しろ!」

「もう時間外です。緊急の場合以外は通せません。お帰りください」

「なんだとぉっ、この野郎っ。通せっ」

 何の騒ぎなんだろう。後ろで控えていたもう一人の門番に状況を尋ねた。

「どうしたんですか?」

「あっ、聖女様。それがこの男の妻が先日、神殿で治療を受けたらしいのですが、魔物の傷らしく、あまり良くならなかったというのです。だからもう一度治療しろと言ってきて」

「そうなんですか」

 男性の後ろでは、妻らしい女性が困惑した顔で見つめていた。

「あ、おめぇは聖女さんかっ」

 男性が私に気付き、門番を振り切りこちらに近づいてきた。
 
「どういうことだ! 魔法で治療しても、どうして女房の怪我がちっとも良くならねーんだよ!」

 男性に腕を掴まれ、爪が食い込んできて痛みが走る。

「い、痛っ」
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