落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

20 王立魔術師団研究所(3)

 魔術師団の研究所を出た私達は、迎えに来てくれた騎士団所有の馬車に乗り神殿へと帰路を急ぐ。

 私はガタガタと揺られながら、窓に映る景色をぼんやりと眺めていた。そして、さっき棺の中で見た夢を思い返していた。

 どうして、私だけ生き残ってしまったの?

 それは私が神殿に来た頃、幾度となく思っていたことだった。
 知らない場所に連れてこられ、周りは誰も知らない人達ばかり。先代の大聖女様は優しく接してくださったけど、私を蔑むように見る人達もいた。勉強をして、雑用をこなす日々。
 私は毎晩、淋しくて、切なくて、泣いていた。

 そして月日が経つにつれその気持ちは次第に薄れ、立派な聖女になることだけを目標に生きてきた。
 

「まだ体調が優れないか?」

 私が静かに外を見ていたせいか、向かいに座るライオネル様が気遣って声をかけてくれた。

「あ、いえ。全然平気です」

 どうにか笑顔を返すが、どうも頭の中が夢に引きずられているようで上手くいかなかった。

「そうか……」

 ライオネル様もそれ以上聞いては来なかった。
 再び沈黙が走り、ガタガタと車輪の音だけが響いている。

 段々と日が傾いてきて、街並みが朱色に染まりはじめた。

「……棺で君は……」

「え?」

 独り言のような呟きが聞こえたのでライオネル様の方を見ると、彼も窓の外の景色を見つめていた。その横顔は夕日に照らされている。

「置いていかないでと……」

「!」
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