落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

24 犬捜し(1)

 魔術師団研究所からの帰り道だった。もう少しで神殿に到着するという所で、馬車の窓からうずくまっている子供の姿が見えた。

「あ……」

 思わず漏れた声に、目を閉じ腕を組んでいたライオネル様が視線をこちらに向けた。

「どうした?」

「あの子どうしたんでしょうか?」

 窓の外の子供に指差すと、ライオネル様も外を覗き込んだ。

「ちょっと止まってくれ」

 子供の姿を確認したライオネル様が御者に声をかけると、馬車は止まった。馬車から降りて、二人で子供がいる所まで歩いていく。

「君、どうしたの?」

 うずくまっている子供に声をかけると、その子が顔を上げた。十歳くらいか、もっと幼いかもしれない男の子が泣いていて目を真っ赤に腫らしている。

「う、うぇ……、ジャックが……、いなくなっちゃった……の……」

「ジャック?」

「ボクの……犬……なんだ……ぐすっ」

「ワンちゃんとはぐれちゃったの?」

 男の子は鼻をすすりながら頷いた。

「少年、どこではぐれたのか覚えてるか?」

 ライオネル様は屈み込み、男の子と同じ目線になって話しかけた。

「あっち……」

 男の子は神殿の近くの方を指差した。

「どんな犬なんだ?」

「えっと……、白くて……モフモフしたちっちゃいの……」

「そうか、わかった。犬の捜索は俺達騎士団に任せてくれるか? 必ず連れて帰る」

 ライオネル様は男の子に優しく語りかける。ライオネル様は一見冷たく見えるが、面倒見が良くて優しいんだよね。

「うん……」

 男の子がコクンと首を縦に振った。ライオネル様が男の子の手を取り立ち上がると私の方を向く。

「アイリス、すまないが一人でこのまま馬車で神殿に戻ってくれ。俺はこの少年を家まで送り届ける」

 私もこの男の子や、ワンちゃんのことが心配だったが、一緒に捜すわけにはいかない。騎士団に任せるのが賢明だ。

「はい、わかりました」

 私は二人とはこの場で別れ、神殿に向かったのだった。
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