落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜

26 たとえ誰を好きでも

 調理場を覗くと、私に気づいたハンナさんが手招きをしている。

「あぁ、アイリス。丁度いい所に来たね。これあたしらの賄いだけど食べるかい?」

「え? いいんですか!? 食べます!」

 私がピシっと手を上げると、ハンナさんは調理場の端に椅子を出してくれる。用意してくれたのは丸い形のハードなパンと、野菜スープだった。

「うふふっ、素直な子は好きだよ。こっちに座って食べな。今日は買い出しもお願いするよ」

「はい。了解でーす!」

 野菜スープにパンを浸すと、スープの旨味をパンが吸ってとてもおいしかった。

「アイリス、最近楽しそうだね。何か良いことあったね? あ、あの騎士副団長様と進展でもしたかい?」

「えっ、なんっ、うぐっ、ゲボゲボッゲボッ」

 思いもよらないセリフにむせて咳き込んでしまう。

「あー、大丈夫かい!? ほら、お水だよ」

 差し出されたグラスのお水を飲み干す。

「ハ、ハ、ハンナさんっ、なななっんっ、しって」

「何で知ってるかって? それはこの間八百屋のオヤジさんに聞いたんだよ。最近一緒に買い物してるってね」

「あ、いや、それには理由がっ。あの、そのことは、誰かに……」

「言わないさ。安心しな。あたしはね、あんたには幸せになってほしいのさ」

 そう言ったハンナさんはニカッと八重歯を出して笑った。

「え?」

「あんたがこの神殿に来た頃のことを今でも鮮明に覚えているよ。細くて小さくて……、それは今もだけど。家族を亡くしたばかりの平民の子供がさ、貴族ばっかの神殿の中で泣き言も言わず頑張って来たのを、あたしはずっと見てきたんだからね」

「ハンナさん……」

 そんなふうに思ってくれてたんだと知って胸が熱くなる。
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