赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

49.偽物姫のおまじない。

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 帝国某所にて。

「随分、派手にやっているじゃないか」

 女王様はご機嫌ナナメみたいだね、と茶化すような声が響く。

「みんなの憧れ、淑女の鑑の名が泣くんじゃないかい? グレイス」

 名を呼ばれ振り返ってその人物を紫紺の瞳に映したグレイスは、

「ふふっ、嫌ですわ。リックったら。ここでは武器商人ジェシカ・ローウェンの名で呼んでくださらなくては」

 ジャキっと構えて慣れた動作で銃を構えたグレイスは、

「でなければ、私もあなたをハリス公子、とお呼びしますよ?」

 堅苦しいの、お嫌いでしょう? と綺麗に笑って銃を撃った。
 それは見事に命中し、命乞いをしていた男の生命を強制的に終わらせる。

「それにこれはただの性能実験です」

 いい武器入ってますわよ、とグレイスはビジネスパートナーであるハリス公国大公家嫡男エリック・ハリスに笑いかけた。

「相変わらず、素晴らしい腕前だね」

 パチパチと拍手を送るエリックに、

「あら、戦争王のご子息に褒められるだなんて悪い気はしませんわね」

 淑女らしい礼をしてみせるグレイス。
 戦争王はハリス公国大公の別名。そしてキャメル伯爵家裏稼業の得意先だ。
 おじ様はお元気? とグレイスは世間話をしながら銃を振り回し、

「これはもう少し軽くした方が良さそうね。子どもでも扱えるレベルで」

 改善点を従者に伝えて武器を渡した。

「で、わざわざ私を呼び出すなんて一体何の御用かな、我が麗しの女王様?」

 冗談めかし、恭しくそう尋ねるエリックに綺麗に微笑んだグレイスは、

「大したお願いではないですわ。ちょっと目障りな雑草を枯らして欲しくって」

 絵姿を2枚手渡す。

「私、雑草って嫌いなの。だって、美しい花が育つための養分を横取りしてしまうでしょう?」

「おや美人さん。私としては楽しめれば良いんだけど」

 エリックはぺらっと一枚の絵姿をグレイスに見せ、

「こっちの子も処分しちゃっていいの? 表の君の親友でしょ、確か」

 と確認する。
 そこにはシエラ・フォン・リタが描かれていた。

「ふはっ、親友? 本当にそんなモノが存在するとでも?」

 面白い冗談、と一蹴したグレイスは、

「ソレ、もういらないの。夫のシェアなんて趣味じゃないし。その世間知らずは目障りだから修道院にでも突っ込んで置いて」

 妻の座は一つで充分、と言い切る。

「皇后の椅子には私が座る。そして、キャメル一族がこの国を取り仕切るの」

 表からも裏からも、ね。
 そう言って不敵に笑ったグレイスは、終焉の開幕を静かに告げた。

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