赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
50.偽物姫と誘拐。
ハリス公国との会談当日、宮廷内はとても静かだった。少なくとも表面上は。
準備はすでに済ませてしまったので、宴席前の着替えまで私がする事は特にないけれど。
私はそっと、自分の額に手を触れる。
『"暴君王女"のお墨付き。これは期待に応えなくては、な?』
そう言って不敵に笑った、セルヴィス様。
困った。何もすることがないと、ふとした瞬間に、思い出してしまう。
(何を考えているの、私は)
あの人は、イザベラの夫なのに。
誰かに心配されることに、慣れてないから。
自分にそう言い訳をして、赤面しそうになるのを抑えた私は、
「……一応、備えておこうかしら?」
何もなければそれに越した事は無いのだから、と宮廷内や後宮内を回り、自分の身を守るための武器をこっそり用することにした。
「あれ、は?」
宮廷内で不審な動きをする人物が目に止まる。
淡い薄桃色の髪やローズピンクの大きな瞳を隠していても、動きが不審すぎてめちゃくちゃ目立つ。
「シエラ・フォン・リタ」
彼女の名前をつぶやいて、何をやっているのかとため息を漏らす。
リタ侯爵家自体は宴席に呼ばれているが、彼女自身はこの間私に難癖をつけ廷内で騒ぎを起こした責をとり謹慎中のはず。
「セルヴィス様の温情が分からないほど愚かでは救いようがないわね」
次に何かあればいくら帝国四家と呼ばれるリタ侯爵家であってもシエラを庇いきれない。
それが分からないほど彼女の頭はめでたくできているのか。あるいは、分かった上でそれでも貫かねばならない信念があるのか。
『あの方の、セルヴィス様の隣に立つのはこの私。シエラ・フォン・リタよ!!』
ふと、かつて彼女から受けた宣戦布告を思い出す。
必死に私に喰らい付いてきたあの目は、恋情などではなかった。
もっと、別の何か大切なモノを守ろうとする目。
「だとしても、私には関係ない」
そう割り切るつもりだったけど、
『もし、何かあっても"皇帝陛下"として場に立つ以上、俺は君を優先できない』
そう言ったセルヴィス様の憂い顔が頭を過ぎり、足を止める。
セルヴィス様は優しい。
そして、そんな彼を余計なことで煩わせたくない。この会談が、帝国にとって重要なものであるなら尚更。
「あ〜もうっ!」
ハリス公国との会談を滞りなく終わらせる。きっとそれは将来のイザベラのためにもなるはずだ。そのためには、小さな綻びも潰しておかなくては。
廷内に入り込んでいる間者の把握なんてしていないし、会談中でセルヴィス様の配下が手薄となっている今、誰かに伝言を頼むのも難しそうだ。
仕方ないと悩んだ末に私はこっそりシエラの後を追うことにした。
**
シエラが向かった先は衣装室だった。
そこには今日の宴で私が着る衣装が保管してあった。
「おやめなさい」
ビクッと肩を震わせ、ローズピンクの瞳がこちらを向く。
シエラの手にはインクが握られていて、衣装をダメにしようとしていたのは明らかだった。
「なん、で?」
「答える義理はありません。衛兵を呼びました」
まぁ、衛兵は嘘だけどと心の中で付け足して、
「私に対する多少の嫌がらせくらいなら目を瞑ってあげましたけど、これは流石にやりすぎです」
動揺し顔から色をなくしたシエラの手からインクを取り上げる。
「私を宴に出られないようにして、どうするおつもりでしたの? 代わりにあなたが参加できるわけでもないのに」
「そんなの、分かってるわよ!」
キッと私を睨んだシエラは、悔しそうにそう叫ぶ。
「でも、アンタがいなくなればっ」
「!?」
その続きがシエラから語られるより早く、部屋の中潜んでいたらしい知らない男達に囲まれていて。
手馴れた様子で薬を嗅がされた私は抗う間もなく攫われた。
準備はすでに済ませてしまったので、宴席前の着替えまで私がする事は特にないけれど。
私はそっと、自分の額に手を触れる。
『"暴君王女"のお墨付き。これは期待に応えなくては、な?』
そう言って不敵に笑った、セルヴィス様。
困った。何もすることがないと、ふとした瞬間に、思い出してしまう。
(何を考えているの、私は)
あの人は、イザベラの夫なのに。
誰かに心配されることに、慣れてないから。
自分にそう言い訳をして、赤面しそうになるのを抑えた私は、
「……一応、備えておこうかしら?」
何もなければそれに越した事は無いのだから、と宮廷内や後宮内を回り、自分の身を守るための武器をこっそり用することにした。
「あれ、は?」
宮廷内で不審な動きをする人物が目に止まる。
淡い薄桃色の髪やローズピンクの大きな瞳を隠していても、動きが不審すぎてめちゃくちゃ目立つ。
「シエラ・フォン・リタ」
彼女の名前をつぶやいて、何をやっているのかとため息を漏らす。
リタ侯爵家自体は宴席に呼ばれているが、彼女自身はこの間私に難癖をつけ廷内で騒ぎを起こした責をとり謹慎中のはず。
「セルヴィス様の温情が分からないほど愚かでは救いようがないわね」
次に何かあればいくら帝国四家と呼ばれるリタ侯爵家であってもシエラを庇いきれない。
それが分からないほど彼女の頭はめでたくできているのか。あるいは、分かった上でそれでも貫かねばならない信念があるのか。
『あの方の、セルヴィス様の隣に立つのはこの私。シエラ・フォン・リタよ!!』
ふと、かつて彼女から受けた宣戦布告を思い出す。
必死に私に喰らい付いてきたあの目は、恋情などではなかった。
もっと、別の何か大切なモノを守ろうとする目。
「だとしても、私には関係ない」
そう割り切るつもりだったけど、
『もし、何かあっても"皇帝陛下"として場に立つ以上、俺は君を優先できない』
そう言ったセルヴィス様の憂い顔が頭を過ぎり、足を止める。
セルヴィス様は優しい。
そして、そんな彼を余計なことで煩わせたくない。この会談が、帝国にとって重要なものであるなら尚更。
「あ〜もうっ!」
ハリス公国との会談を滞りなく終わらせる。きっとそれは将来のイザベラのためにもなるはずだ。そのためには、小さな綻びも潰しておかなくては。
廷内に入り込んでいる間者の把握なんてしていないし、会談中でセルヴィス様の配下が手薄となっている今、誰かに伝言を頼むのも難しそうだ。
仕方ないと悩んだ末に私はこっそりシエラの後を追うことにした。
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シエラが向かった先は衣装室だった。
そこには今日の宴で私が着る衣装が保管してあった。
「おやめなさい」
ビクッと肩を震わせ、ローズピンクの瞳がこちらを向く。
シエラの手にはインクが握られていて、衣装をダメにしようとしていたのは明らかだった。
「なん、で?」
「答える義理はありません。衛兵を呼びました」
まぁ、衛兵は嘘だけどと心の中で付け足して、
「私に対する多少の嫌がらせくらいなら目を瞑ってあげましたけど、これは流石にやりすぎです」
動揺し顔から色をなくしたシエラの手からインクを取り上げる。
「私を宴に出られないようにして、どうするおつもりでしたの? 代わりにあなたが参加できるわけでもないのに」
「そんなの、分かってるわよ!」
キッと私を睨んだシエラは、悔しそうにそう叫ぶ。
「でも、アンタがいなくなればっ」
「!?」
その続きがシエラから語られるより早く、部屋の中潜んでいたらしい知らない男達に囲まれていて。
手馴れた様子で薬を嗅がされた私は抗う間もなく攫われた。