赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
54.偽物姫の手練手管。
「散々私を蔑んでいたあなたが一番よく分かっているでしょう。この帝国で誰が元敵国の王女である私を助けてくれるというの?」
セルヴィス様の要求に応じ、私は侍女一人伴わず身一つで輿入れした。私の手足になってくれる人間なんてここにはいない。
尤も、自国でさえリィルに従う人間なんていなかったけれど。
「そん、な……」
一縷の望みを絶たれたようにシエラの顔に悲壮感が浮かぶ。
「ざまぁないわね、ご愁傷様」
シエラの甘い見通しを全て打ち砕いたところで、使い古された悪役のようなセリフを吐くと、
「とにかく、私が帰ると言ったら帰るのよ。何を犠牲にしてもね」
ここにちょうど差し出しそうな生贄もいることだし、と暴君王女らしく冷酷に告げる。
「生贄?」
「そうよ。おつむの足りないあなたのために、もっとはっきり言ってあげましょうか? どうせなら私のために苦しんで死になさい、って言っているのよ」
愚かなあなたにお似合いの末路ねとクスクスと嘲笑する私を見て、ローズピンクの瞳に微かに感情の色が宿る。
憎悪でも、嫌悪でも、怒りでも。
立ち上がれるなら、どんな感情でもいい。
彼女が動き出すための一手を引き出さなければ、と探りながら私は言葉を続ける。
「何を驚いているの? 私はあなたの敵でしょう?」
シエラには元々嫌われている。
別に彼女と仲良しごっこをやる必要もないのだから、関係が決定的にダメになっても問題ない。
シエラの頬に赤みがさし、眉が吊り上がるのを見て私は、口角を上げる。
「それともなぁに? 散々蔑んだクローゼアの王女に無様に縋りたいの? まぁ、あなたが誇る高貴な血とは随分低俗で安っぽいのね」
敵は目の前にいるのだと認識させ私に一矢報いたいと彼女が自分を奮い立たせなきゃと私は思考をフル回転させる。
シエラが生きることを諦めないならそれでいい。動きさえすれば、そこには可能性が生まれる。
「知を司る、だなんてとんでもない。あなたみたいな娘を後宮入りさせようだなんて、リタ侯爵家の底が知れるわぁ」
パンっと乾いた音が部屋に響く。
「黙って聞いていればっ!」
私の言葉に怒りを露わにしたシエラは私の襟首に掴みかかり、
「私の事は構わない。でも、うちの家門を私の家族を侮辱することは許さない」
きっ、とローズピンクの瞳が私を睨む。
そこには、はっきりと怒りの色が浮かんでいて。
「撤回なさい」
私に食ってかかる彼女から絶望の色が薄まる。
ああ、怒っている。
それも、自分のためではなく家族の名誉のために。
セルヴィス様の要求に応じ、私は侍女一人伴わず身一つで輿入れした。私の手足になってくれる人間なんてここにはいない。
尤も、自国でさえリィルに従う人間なんていなかったけれど。
「そん、な……」
一縷の望みを絶たれたようにシエラの顔に悲壮感が浮かぶ。
「ざまぁないわね、ご愁傷様」
シエラの甘い見通しを全て打ち砕いたところで、使い古された悪役のようなセリフを吐くと、
「とにかく、私が帰ると言ったら帰るのよ。何を犠牲にしてもね」
ここにちょうど差し出しそうな生贄もいることだし、と暴君王女らしく冷酷に告げる。
「生贄?」
「そうよ。おつむの足りないあなたのために、もっとはっきり言ってあげましょうか? どうせなら私のために苦しんで死になさい、って言っているのよ」
愚かなあなたにお似合いの末路ねとクスクスと嘲笑する私を見て、ローズピンクの瞳に微かに感情の色が宿る。
憎悪でも、嫌悪でも、怒りでも。
立ち上がれるなら、どんな感情でもいい。
彼女が動き出すための一手を引き出さなければ、と探りながら私は言葉を続ける。
「何を驚いているの? 私はあなたの敵でしょう?」
シエラには元々嫌われている。
別に彼女と仲良しごっこをやる必要もないのだから、関係が決定的にダメになっても問題ない。
シエラの頬に赤みがさし、眉が吊り上がるのを見て私は、口角を上げる。
「それともなぁに? 散々蔑んだクローゼアの王女に無様に縋りたいの? まぁ、あなたが誇る高貴な血とは随分低俗で安っぽいのね」
敵は目の前にいるのだと認識させ私に一矢報いたいと彼女が自分を奮い立たせなきゃと私は思考をフル回転させる。
シエラが生きることを諦めないならそれでいい。動きさえすれば、そこには可能性が生まれる。
「知を司る、だなんてとんでもない。あなたみたいな娘を後宮入りさせようだなんて、リタ侯爵家の底が知れるわぁ」
パンっと乾いた音が部屋に響く。
「黙って聞いていればっ!」
私の言葉に怒りを露わにしたシエラは私の襟首に掴みかかり、
「私の事は構わない。でも、うちの家門を私の家族を侮辱することは許さない」
きっ、とローズピンクの瞳が私を睨む。
そこには、はっきりと怒りの色が浮かんでいて。
「撤回なさい」
私に食ってかかる彼女から絶望の色が薄まる。
ああ、怒っている。
それも、自分のためではなく家族の名誉のために。