赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
60.偽物姫の知らないところで物語は動き出す。
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「た、助けっ」
命乞いをする間もなく、辺りには無慈悲な音が鳴り響く。
先の失敗で皇帝陛下の逆鱗に触れた精鋭部隊は戻らず、残りの護衛もたった今失った。もはやエリック・ハリスの盾は存在しない。
雲が流れ月明かりが映し出したのは、残酷で妖艶な捕食者の姿。
「……グレイス」
「"ジェシカ"よ、リック。ふふっ、まさか貴方がここまで愚かな男だとは思わなかったわ」
真っ赤な唇は綺麗な弧を描いているが、紫紺の瞳は全く笑ってなどおらず何の感情も読み取れない。
それが一層エリックの恐怖心を煽った。
「私は確かに"始末"を依頼したのだけど、どうしてイザベラが宴に間に合っちゃったのかしら?」
おかげでビジネスチャンスを不意にしたわ、と淡々とグレイスは事実を述べる。
「シエラについてもそう。殺せ、なんて誰が言った?」
「し、仕方がなかったんだ。父が、彼女を気に入って……工作するにも遺体二つは」
言葉を遮るように銃声が一発すぐ耳元で轟く。
「正しく言葉が聞き取れない耳ならいらないわよね?」
調べがついてないとでも? とグレイスは冷めた視線をエリックに送る。
暖かい何かがエリックの頬を伝う。
視線を落とし、紅く染まった血溜まりを認識した途端、気が触れそうな激痛をようやく身体が認知する。
「ぎゃぁああああーーーーー! み、耳がっああああーーーーー」
「ふふ♪ 上手く改良できたでしょう?」
愛おしそうに銃を撫でたグレイスは、
「最新の魔術を融合させた自動追跡機能付きなの! アルカが留学しちゃったから、魔術式を聞き出すのに骨が折れたけど。でも苦労した分、女や子どもでも扱い易くて精度も高いものに仕上げられた」
新商品よ、と自慢げに紹介する。
「こ、こんな事をして、父がっ! ハリス大公家が黙っているとっ」
「大公家、ねぇ?」
ふっ、と嘲笑したグレイスは、
「コレなぁーんだ?」
そっとヴァイオレットブルーの長い髪を指で掬い耳元を露わにする。
「そ、れは……」
エリックは彼女の耳に止まるそれをまじまじと見つめる。
その耳に止まる石には見覚えがあった。
「そう、オゥルディ帝国の皇帝が代々受け継ぐ特別製のカフス。可愛くないからイヤカフにしちゃった♪」
似合うかしら? と楽しげに笑い見せびらかすグレイス。
「何で……君がっ」
信じられないものでも見るかのように悲痛な声を上げたエリックに、
「何故って、お代として? ハリス大公の戦争好きにも困ったものよねぇ。こーんな大事なモノを質にするんだもん」
グレイスは楽しげに解説する。
「ハリス大公は"戦争王"なんて呼ばれているけれど、それは我がファミリアの武器と情報があっての話でしょう?」
グレイスは銃をくるくると器用に回して弄び、
「ハリス大公がだぁーい好きな戦争に明け暮れてくれたおかげで、ウチは随分と稼がせてもらったわ。これでもいいパートナーだと思っていたのよ? だから多少のおイタにも目をつぶってあげていたのだけど」
芝居がかった口調で残念そうに形のいい眉を下げて、
「番狂せのせいで計画も狂っちゃったし、もういいかなっ♪って」
残念だけどここまでね、と肩をすくめた。
「計……画?」
「そっ。愚かな皇帝に座してもらって、表からはキャメル伯爵家が裏ではローウェンファミリアが帝国を乗っ取る計画」
グレイスは美しく微笑み恐ろしい企みを暴露する。
「我がローウェンファミリアは領土を持たない。故にどの国にでも入り込める。そうして裏社会を牛耳ることを信条としていたし、そんなファミリアを誇りに思っていたみたいだけど。でもね、私はずっーと私だけの王国が欲しかったの」
ないのなら、奪うまで。
とグレイスは皇帝の証であるイヤカフスを撫で、
「先代の皇帝陛下とハリス大公が蜜月だったから、跡目争いのどさくさで皇帝の証を回収し、呪い子に渡さずに済んだ。証を持たない呪い子と多くの貴族に支持される私。さて、帝位に相応しいのはどちらかしら?」
綺麗な顔で笑ったグレイスは慣れた様子で銃を構える。
「最期は商人らしいご挨拶にしましょうか。長らくのご愛顧、誠にありがとうございました、なんてどう?」
「やめっ」
銃声が懇願を打ち砕き、倒れたエリックをつまらなそうに眺めたグレイスは側で控えていた男に銃を渡す。
「次は音を消せる魔法でも搭載しましょうか」
需要高そう、と新商品のアイデアをつぶやいたグレイスは、
「さて、逆賊らしく全部を奪いにいきましょうか? まずは……そう、邪魔な女の故郷から」
終焉の幕開けを宣言した。
「た、助けっ」
命乞いをする間もなく、辺りには無慈悲な音が鳴り響く。
先の失敗で皇帝陛下の逆鱗に触れた精鋭部隊は戻らず、残りの護衛もたった今失った。もはやエリック・ハリスの盾は存在しない。
雲が流れ月明かりが映し出したのは、残酷で妖艶な捕食者の姿。
「……グレイス」
「"ジェシカ"よ、リック。ふふっ、まさか貴方がここまで愚かな男だとは思わなかったわ」
真っ赤な唇は綺麗な弧を描いているが、紫紺の瞳は全く笑ってなどおらず何の感情も読み取れない。
それが一層エリックの恐怖心を煽った。
「私は確かに"始末"を依頼したのだけど、どうしてイザベラが宴に間に合っちゃったのかしら?」
おかげでビジネスチャンスを不意にしたわ、と淡々とグレイスは事実を述べる。
「シエラについてもそう。殺せ、なんて誰が言った?」
「し、仕方がなかったんだ。父が、彼女を気に入って……工作するにも遺体二つは」
言葉を遮るように銃声が一発すぐ耳元で轟く。
「正しく言葉が聞き取れない耳ならいらないわよね?」
調べがついてないとでも? とグレイスは冷めた視線をエリックに送る。
暖かい何かがエリックの頬を伝う。
視線を落とし、紅く染まった血溜まりを認識した途端、気が触れそうな激痛をようやく身体が認知する。
「ぎゃぁああああーーーーー! み、耳がっああああーーーーー」
「ふふ♪ 上手く改良できたでしょう?」
愛おしそうに銃を撫でたグレイスは、
「最新の魔術を融合させた自動追跡機能付きなの! アルカが留学しちゃったから、魔術式を聞き出すのに骨が折れたけど。でも苦労した分、女や子どもでも扱い易くて精度も高いものに仕上げられた」
新商品よ、と自慢げに紹介する。
「こ、こんな事をして、父がっ! ハリス大公家が黙っているとっ」
「大公家、ねぇ?」
ふっ、と嘲笑したグレイスは、
「コレなぁーんだ?」
そっとヴァイオレットブルーの長い髪を指で掬い耳元を露わにする。
「そ、れは……」
エリックは彼女の耳に止まるそれをまじまじと見つめる。
その耳に止まる石には見覚えがあった。
「そう、オゥルディ帝国の皇帝が代々受け継ぐ特別製のカフス。可愛くないからイヤカフにしちゃった♪」
似合うかしら? と楽しげに笑い見せびらかすグレイス。
「何で……君がっ」
信じられないものでも見るかのように悲痛な声を上げたエリックに、
「何故って、お代として? ハリス大公の戦争好きにも困ったものよねぇ。こーんな大事なモノを質にするんだもん」
グレイスは楽しげに解説する。
「ハリス大公は"戦争王"なんて呼ばれているけれど、それは我がファミリアの武器と情報があっての話でしょう?」
グレイスは銃をくるくると器用に回して弄び、
「ハリス大公がだぁーい好きな戦争に明け暮れてくれたおかげで、ウチは随分と稼がせてもらったわ。これでもいいパートナーだと思っていたのよ? だから多少のおイタにも目をつぶってあげていたのだけど」
芝居がかった口調で残念そうに形のいい眉を下げて、
「番狂せのせいで計画も狂っちゃったし、もういいかなっ♪って」
残念だけどここまでね、と肩をすくめた。
「計……画?」
「そっ。愚かな皇帝に座してもらって、表からはキャメル伯爵家が裏ではローウェンファミリアが帝国を乗っ取る計画」
グレイスは美しく微笑み恐ろしい企みを暴露する。
「我がローウェンファミリアは領土を持たない。故にどの国にでも入り込める。そうして裏社会を牛耳ることを信条としていたし、そんなファミリアを誇りに思っていたみたいだけど。でもね、私はずっーと私だけの王国が欲しかったの」
ないのなら、奪うまで。
とグレイスは皇帝の証であるイヤカフスを撫で、
「先代の皇帝陛下とハリス大公が蜜月だったから、跡目争いのどさくさで皇帝の証を回収し、呪い子に渡さずに済んだ。証を持たない呪い子と多くの貴族に支持される私。さて、帝位に相応しいのはどちらかしら?」
綺麗な顔で笑ったグレイスは慣れた様子で銃を構える。
「最期は商人らしいご挨拶にしましょうか。長らくのご愛顧、誠にありがとうございました、なんてどう?」
「やめっ」
銃声が懇願を打ち砕き、倒れたエリックをつまらなそうに眺めたグレイスは側で控えていた男に銃を渡す。
「次は音を消せる魔法でも搭載しましょうか」
需要高そう、と新商品のアイデアをつぶやいたグレイスは、
「さて、逆賊らしく全部を奪いにいきましょうか? まずは……そう、邪魔な女の故郷から」
終焉の幕開けを宣言した。