赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
62.偽物姫は未来を託す。
「呼び立ててすまない」
そう言ったセルヴィス様はトンっと私の目の前に禍禍しい色の液体が入った瓶を置いた。
「"死の霧"と君は言っていたな。コレに見覚えは?」
単刀直入に要件を切り出したセルヴィス様に断り瓶を手に取る。
貼られた札と紋様に書かれた筆跡は見慣れたもので、やはり間違いなく本物の"死の霧"だった。
だが、どうしてコレがここにあるのか私には分からない。
「相手方の尋問は済んだのでしょう? コレをどうやって入手したのか、私もお伺いしたいです」
「口を割らせる前に全員死んだ」
苦々しげに言うセルヴィス様。
おそらくこの事態は彼にとっても想定外だったのだろう。
ここで言葉を濁せば、疑いはどうしても"死の霧"の存在を知っている私、引いてはクローゼアに向けられる。
だとしても私が口を開けば芋蔓式に先生の過去まで暴かれる。
さて、どうすべきか、と言葉を紡げず迷う私の手を取ったセルヴィス様は、
「イザベラ、けして君に不利益を生じさせないと誓う」
真っ直ぐ私の目を見て誓う。
「いつも冷静な君が取り乱すくらいだ。きっとコレは非常に危険なモノなのだろう」
そっと長い指先が伸びてきて、
「一人でなんとかしようとするのはお互い悪い癖だな」
優しく甘やかすように私の頭を撫でながら苦笑する。
「黙秘する事で自分が不利になると分かっていてなお君が口を閉ざすなら、それはきっと自分以外の誰かを守るためだ」
君はとても聡明で優しいから、と低く心地よい声が耳朶に響き、私の心を揺らす。
隠し事全部を暴かれそうで俯きかけたけれどセルヴィス様はそうさせてくれず、強制的に上を向かされ彼と目が合った私は息を呑む。
「クローゼアを俺に売りつけるんだろ? なら、全部俺に寄越せ」
自信に溢れた紺碧の瞳。
獲物をけして逃さない、狼の眼。
「全……部?」
「ああ、全部だ。君が守りたいモノも、君を苦しめるモノも、君が抱えている全てが欲しい。俺にクローゼアを売るということはそういうことだ」
そう言ってセルヴィス様は不敵に笑う。
全部寄越せ、だなんて。
なんて、尊大で傲慢なセリフだろうか。
だけど私は知っている。
『あら、この私が欲しいと言っているの! 私の言うことが聞けないの?』
そう言って不敵に笑い、策を巡らせ掌で相手を踊らせる負けなしの"暴君王女"。
私の大好きなお姉様とセルヴィス様は本質的になところでよく似ている、ということを。
「陛下は随分と欲張りですわね? 私の"全て"だなんて」
私は少々高くつきますわよ? と澄ました顔で言えば、
「なんだ、知らなかったのか? 君の夫は強欲なんだ。欲しいと思えば先代から国だって奪いとる」
と、セルヴィス様がわざとらしく肩をすくめて応戦してくる。
紺碧の瞳と目が合い、そして私達は同時に吹き出すように笑った。
緊迫した状況だというのに、いつも通りの言葉の応酬がおかしくて。
「ふっ……っ……ふふっ」
「やっと、笑った」
安堵したような声と、優しい微笑み。
この人なら、きっと大丈夫。
私の大事なモノ全てを託すならセルヴィス様がいい。
「どうして"死の霧"がここにあるのかは分かりませんし、現物を見るのは、私も初めてです。ただコレの製造者は知っています」
私は私に薬学の知識を与えてくれたブロンドの瞳を思い浮かべ、
「サーシャ・アステラード。私の母であるシャーロットの今は亡き母国カルーテの元宮廷薬師。そして私の師の名前です」
セルヴィス様に情報を告げた。
そう言ったセルヴィス様はトンっと私の目の前に禍禍しい色の液体が入った瓶を置いた。
「"死の霧"と君は言っていたな。コレに見覚えは?」
単刀直入に要件を切り出したセルヴィス様に断り瓶を手に取る。
貼られた札と紋様に書かれた筆跡は見慣れたもので、やはり間違いなく本物の"死の霧"だった。
だが、どうしてコレがここにあるのか私には分からない。
「相手方の尋問は済んだのでしょう? コレをどうやって入手したのか、私もお伺いしたいです」
「口を割らせる前に全員死んだ」
苦々しげに言うセルヴィス様。
おそらくこの事態は彼にとっても想定外だったのだろう。
ここで言葉を濁せば、疑いはどうしても"死の霧"の存在を知っている私、引いてはクローゼアに向けられる。
だとしても私が口を開けば芋蔓式に先生の過去まで暴かれる。
さて、どうすべきか、と言葉を紡げず迷う私の手を取ったセルヴィス様は、
「イザベラ、けして君に不利益を生じさせないと誓う」
真っ直ぐ私の目を見て誓う。
「いつも冷静な君が取り乱すくらいだ。きっとコレは非常に危険なモノなのだろう」
そっと長い指先が伸びてきて、
「一人でなんとかしようとするのはお互い悪い癖だな」
優しく甘やかすように私の頭を撫でながら苦笑する。
「黙秘する事で自分が不利になると分かっていてなお君が口を閉ざすなら、それはきっと自分以外の誰かを守るためだ」
君はとても聡明で優しいから、と低く心地よい声が耳朶に響き、私の心を揺らす。
隠し事全部を暴かれそうで俯きかけたけれどセルヴィス様はそうさせてくれず、強制的に上を向かされ彼と目が合った私は息を呑む。
「クローゼアを俺に売りつけるんだろ? なら、全部俺に寄越せ」
自信に溢れた紺碧の瞳。
獲物をけして逃さない、狼の眼。
「全……部?」
「ああ、全部だ。君が守りたいモノも、君を苦しめるモノも、君が抱えている全てが欲しい。俺にクローゼアを売るということはそういうことだ」
そう言ってセルヴィス様は不敵に笑う。
全部寄越せ、だなんて。
なんて、尊大で傲慢なセリフだろうか。
だけど私は知っている。
『あら、この私が欲しいと言っているの! 私の言うことが聞けないの?』
そう言って不敵に笑い、策を巡らせ掌で相手を踊らせる負けなしの"暴君王女"。
私の大好きなお姉様とセルヴィス様は本質的になところでよく似ている、ということを。
「陛下は随分と欲張りですわね? 私の"全て"だなんて」
私は少々高くつきますわよ? と澄ました顔で言えば、
「なんだ、知らなかったのか? 君の夫は強欲なんだ。欲しいと思えば先代から国だって奪いとる」
と、セルヴィス様がわざとらしく肩をすくめて応戦してくる。
紺碧の瞳と目が合い、そして私達は同時に吹き出すように笑った。
緊迫した状況だというのに、いつも通りの言葉の応酬がおかしくて。
「ふっ……っ……ふふっ」
「やっと、笑った」
安堵したような声と、優しい微笑み。
この人なら、きっと大丈夫。
私の大事なモノ全てを託すならセルヴィス様がいい。
「どうして"死の霧"がここにあるのかは分かりませんし、現物を見るのは、私も初めてです。ただコレの製造者は知っています」
私は私に薬学の知識を与えてくれたブロンドの瞳を思い浮かべ、
「サーシャ・アステラード。私の母であるシャーロットの今は亡き母国カルーテの元宮廷薬師。そして私の師の名前です」
セルヴィス様に情報を告げた。