赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
64.偽物姫と陰謀。
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ーーハリス公国某所にて。
「まぁ、ハリス大公ったら。公国は貴族の治める国だというのに、玉座に未練タラタラね」
拾い上げた王冠を頭に載せたグレイスは、
「あはっ♪ でも趣味わる〜い。これなら何も持たない今の皇帝陛下の方が余程いい趣味してたわよ」
地面に組み伏せられているハリス大公を見下ろし綺麗に笑う。
「無駄な宝石多過ぎ。デザインダサいし、いーらないっと」
「やめてくれっ!」
ふふっと楽しげに笑ったグレイスは、ハリス大公の目の前で彼の王冠を叩き割った。
「なんて事を」
懇願が悲鳴に変わる。
それをにこやかに受け流しながら、
「偽物の玉座になんて興味ないの。ハリス大公もそうでしょう?」
冷めた声でそう言ってグレイスはハリス大公の顔のすぐ横にナイフを突き刺す。
「あ、今はお義父様なんだっけ? 白い結婚どころか旦那様いないんだけど」
「……エリックを、息子をどこにやった!?」
「さぁ? 今頃回遊魚と仲良く一緒に泳いでいるんじゃないかしら?」
お友達いっぱいできると良いわね? と可憐に笑いかけた。
「あら嫌だ。家族を亡くすのは初めてじゃないでしょう?」
大きく見開かれた初老の目に視線を合わせたグレイスは不思議そうに目を瞬かせる。
「長男も次男も三男も妻も愛人もみーんなハリス大公の戦争に巻き込まれて死んだじゃありませんか?」
何を今更、とグレイスは形の良い唇で残酷な言葉を紡ぐ。
「違う! アレは必要な戦いだった。オゥルディが帝国として生まれ変わり強者であり続けるためには、歯向かう全てを焼き払う必要があったのだ」
戦争は他国に追従を許さないための手段。
そうしなければもっと大きな犠牲が生まれたのだ、と主張するハリス大公に微笑んだグレイスは、
「あら、素敵。祖国であるオゥルディ帝国を守る。ならば、大義のために踏みつけられる命があったとしても、些細な事でしかありませんわ」
甘言を囁き肯定する。
「その通りだ。全ては我が祖国オゥルディの発展のため」
甘美な勝利に酔いしれて、英雄と持て囃されたかつての自分を忘れられない憐れな老害。それが今のハリス大公の姿だ。だから彼には利用価値がある。
ニコッと微笑むグレイスは、
「素晴らしい心意気。私、勘違いしておりましたわ」
離して差し上げてと命じ、
「さて、そんな勇敢な戦争王であるハリス大公に新たなビジネスのご提案です。クローゼアを落としましょう」
解放したハリス大公の眼前に悲劇のシナリオを垂らす。
「クローゼア?」
「ええ。クローゼアはいい場所に領土がありますから、貿易拠点に優れています。勿論、各国に睨みを利かせ武力で牽制するのにも」
グレイスはハリス大公にクローゼアを手中に収める必要について説明し、
「だというのに、せっかく勝利した国に対してたかが王女を一人娶るだけで許すだなんて生温い対応。オゥルディ帝国皇帝はとんだ無能ですわ」
セルヴィスの判断を断じる。
「ハリス大公、そんな男に大事な祖国をいつまで預けておくのです?」
あなたこそが支配者に相応しい、とグレイスは手を差し出す。
「ああ、あの忌々しい呪い子にいつまでも玉座を穢させるわけにはいかない」
「それでこそ"戦争王"ですわ」
パチンと頬の隣で手を叩き、満足気にそう言ったグレイスは禍々しい色の液体が入った瓶を取り出して振ると、
「クローゼアにかつて滅ぼされた国の薬師による復讐の物語、なんていかがですか?」
いい武器、揃ってますよと笑った。
ーーハリス公国某所にて。
「まぁ、ハリス大公ったら。公国は貴族の治める国だというのに、玉座に未練タラタラね」
拾い上げた王冠を頭に載せたグレイスは、
「あはっ♪ でも趣味わる〜い。これなら何も持たない今の皇帝陛下の方が余程いい趣味してたわよ」
地面に組み伏せられているハリス大公を見下ろし綺麗に笑う。
「無駄な宝石多過ぎ。デザインダサいし、いーらないっと」
「やめてくれっ!」
ふふっと楽しげに笑ったグレイスは、ハリス大公の目の前で彼の王冠を叩き割った。
「なんて事を」
懇願が悲鳴に変わる。
それをにこやかに受け流しながら、
「偽物の玉座になんて興味ないの。ハリス大公もそうでしょう?」
冷めた声でそう言ってグレイスはハリス大公の顔のすぐ横にナイフを突き刺す。
「あ、今はお義父様なんだっけ? 白い結婚どころか旦那様いないんだけど」
「……エリックを、息子をどこにやった!?」
「さぁ? 今頃回遊魚と仲良く一緒に泳いでいるんじゃないかしら?」
お友達いっぱいできると良いわね? と可憐に笑いかけた。
「あら嫌だ。家族を亡くすのは初めてじゃないでしょう?」
大きく見開かれた初老の目に視線を合わせたグレイスは不思議そうに目を瞬かせる。
「長男も次男も三男も妻も愛人もみーんなハリス大公の戦争に巻き込まれて死んだじゃありませんか?」
何を今更、とグレイスは形の良い唇で残酷な言葉を紡ぐ。
「違う! アレは必要な戦いだった。オゥルディが帝国として生まれ変わり強者であり続けるためには、歯向かう全てを焼き払う必要があったのだ」
戦争は他国に追従を許さないための手段。
そうしなければもっと大きな犠牲が生まれたのだ、と主張するハリス大公に微笑んだグレイスは、
「あら、素敵。祖国であるオゥルディ帝国を守る。ならば、大義のために踏みつけられる命があったとしても、些細な事でしかありませんわ」
甘言を囁き肯定する。
「その通りだ。全ては我が祖国オゥルディの発展のため」
甘美な勝利に酔いしれて、英雄と持て囃されたかつての自分を忘れられない憐れな老害。それが今のハリス大公の姿だ。だから彼には利用価値がある。
ニコッと微笑むグレイスは、
「素晴らしい心意気。私、勘違いしておりましたわ」
離して差し上げてと命じ、
「さて、そんな勇敢な戦争王であるハリス大公に新たなビジネスのご提案です。クローゼアを落としましょう」
解放したハリス大公の眼前に悲劇のシナリオを垂らす。
「クローゼア?」
「ええ。クローゼアはいい場所に領土がありますから、貿易拠点に優れています。勿論、各国に睨みを利かせ武力で牽制するのにも」
グレイスはハリス大公にクローゼアを手中に収める必要について説明し、
「だというのに、せっかく勝利した国に対してたかが王女を一人娶るだけで許すだなんて生温い対応。オゥルディ帝国皇帝はとんだ無能ですわ」
セルヴィスの判断を断じる。
「ハリス大公、そんな男に大事な祖国をいつまで預けておくのです?」
あなたこそが支配者に相応しい、とグレイスは手を差し出す。
「ああ、あの忌々しい呪い子にいつまでも玉座を穢させるわけにはいかない」
「それでこそ"戦争王"ですわ」
パチンと頬の隣で手を叩き、満足気にそう言ったグレイスは禍々しい色の液体が入った瓶を取り出して振ると、
「クローゼアにかつて滅ぼされた国の薬師による復讐の物語、なんていかがですか?」
いい武器、揃ってますよと笑った。