赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

67.偽物姫と和解。

「アルカ嬢。興味深いお話、ありがとうございます。とても有意義な時間でした」

 アルカに礼を述べると、

「ところでアルカ嬢。本日の目的は達成できました? 急に来られるほど、大事な御用でしょう?」

 と尋ねる。

「ふふっ、面白いことを言う。今日はイザベラ妃に私の作品を見せに来ただけで」

「ええ、確かに見せていただきましたわ。ですから、迎えが来るまでの時間は自由です」

 私はすぐには飲めない熱めのお茶を淹れる。

「次、なんて来ないかもしれませんよ? 明日は誰にも分からないのですから」

 このお茶が冷めるまでの間に、アルカがシエラと素直に話せるようと願いを込めてそれを差し出した私に、

「……お見通し、か」

 観念したように藤色の瞳が苦笑した。

「シエラ、すまなかった」

 アルカは静かに謝罪の言葉を口にする。

「もう、謝るくらいなら、なんで急に来るのよ! 準備する方の事も考えなさいよね」

 そんなアルカにシエラは盛大に文句を述べる。

「……そこじゃないんだが」

「じゃあどこよ?」

 ん??? と疑問符を浮かべ、首を傾げるシエラを見て、吹き出すように笑い肩を震わせたアルカは、

「シエラは……変わらないなぁ」

 ホッとしたような声でそう言った。

「正直、会ってくれないかと思っていた。うちは陛下に見逃してもらった一族だからね」

「なんでよ。私達と家のことは関係ないじゃない」

「切っても切り離せないだろう。貴族籍に身を置く以上は」

 派閥が変われば付き合う人間も変わる。
 それは貴族であればよくある当然のことで。
 歳を重ね背負うモノが増えれば、いつまでも子どもの頃のようにただ"仲良く"なんてできないるわけないのだ。

「私は、陛下からの提案を悩む事なく受け入れた。友情よりも自由を、約束よりも夢を取った」

 セルヴィス様とアルカ、ひいてはホープ侯爵家との間にどんなやり取りがあったのかは知らないが、彼女は国を出て正妃候補を降りた。
 それはつまり、グレイスのお茶会で話していた内容の反故に他ならない。

「"ずっと"なんてない。自分を優先する私はシエラと友ではいられない。だから今日は、シエラに謝罪と別れを言いに来た」

 キッパリとそう告げた彼女の声は硬く、そして言葉とは裏腹に寂しげで。
 そんなアルカを見ながら、

「そう」

 と小さくつぶやいたシエラはピンクローズの瞳を瞬かせ、

「でも、私は今でもアルカは友達だと思ってる。勿論、ドロシーやグレイスのことも。だから、謝罪はともかくお別れなんて嫌だけど」

 と、あっさりアルカの決意を拒否した。

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