赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
68.暴君王女は終結を見据える。
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クローゼア王国、第一王女執務室。
「でき、たっ!」
机に置き場をなくすほどの書類の山と壁一面に貼られた計画表。
それは彼女、クローゼア王国第一王女であるイザベラ・カルーテ・ロンドラインが双子の片割れを取り戻すために積み上げた努力の証だった。
「バカリィル。あなたが細工をしていた事に、私が気づかないわけないでしょう」
クローゼアで双子という存在は許されなかった。
ただ数分、妹は自分より生まれてくるのが遅かった。それに、一体どんな罪があるというのか、イザベラには理解できなかった。
が、イザベラが理解しようがしまいが、現実はただ残酷で暴力的で理不尽でしかなかった。
同じ王女であるにもかかわらず、妹は存在しないモノにされたどころか、蔑まれ不当な扱いをずっと受けて来た。
だというのに、妹はそれに不平を漏らし荒れるどころか、強く運命に立ち向かい、いつも双子の姉を気遣う誰よりも優しい子だった。
自分に選ばせて欲しいと言ったリィルの提案でしたコイントス。運命はリィルの帝国行きを確定させた。
『別にいい』
釘を刺すようなその言葉と、
『向こうで死んだとしても、それは私の運命というやつよ』
全てを受け入れ、諦めてしまったような天色の瞳がイザベラは忘れられない。
あのコイントスは自分の身代わりに危険な橋を妹に渡らせることに決めた姉が、少しでも気に病まずに済むように、というリィルの優しさだった。
と同時に悟った。もし、死ぬような目に遭ったなら、リィルは遺体すら遺さず消える気だ、と。
リィルがイザベラとして死ぬわけにはいかない。が、生死不明であればイザベラの身柄がクローゼアで保護されても誤魔化しがきくから。
リィルはそれほどの覚悟をしているのだと、分かっていたのに。
リィルに礼の一つも言えず、味方の一人も付けてやることすら出来ず、帝国に行く背をただ見送った。
何度も悔いたし、己の無力さを嘆いた。
だが、それももう終いだ。
「待っていて、リィル。もう少し、あと少しだから」
自分の身代わりとして行かせてしまった、双子の片割れを思い浮かべ拳を握りしめる。
冷酷無慈悲、まるで悪魔のようだ、と悪名高いオゥルディ帝国の皇帝陛下だが、彼に浮いた話はなく、おそらく"どうでもいい人間"には興味がない。
嫁いだあとのリィルの情報は入ってこないが、後宮で大人しく過ごしてくれていれば皇帝陛下に目をつけられることはないだろうし、嫌がらせを受けることはあっても命を脅かされることはないはずだ。
「まだ、取り戻せる」
ありとあらゆる情報を精査し、何度もシュミレーションを繰り返した。
リィルが身を犠牲にして作ってくれた時間を決して無駄にはしない。
「さぁ、そろそろ決着をつけましょうか」
天色の瞳は終結を見据える。
手に入らないモノなど何もないと自信に満ち溢れたそれは、クローゼアの"暴君王女"の姿だった。
クローゼア王国、第一王女執務室。
「でき、たっ!」
机に置き場をなくすほどの書類の山と壁一面に貼られた計画表。
それは彼女、クローゼア王国第一王女であるイザベラ・カルーテ・ロンドラインが双子の片割れを取り戻すために積み上げた努力の証だった。
「バカリィル。あなたが細工をしていた事に、私が気づかないわけないでしょう」
クローゼアで双子という存在は許されなかった。
ただ数分、妹は自分より生まれてくるのが遅かった。それに、一体どんな罪があるというのか、イザベラには理解できなかった。
が、イザベラが理解しようがしまいが、現実はただ残酷で暴力的で理不尽でしかなかった。
同じ王女であるにもかかわらず、妹は存在しないモノにされたどころか、蔑まれ不当な扱いをずっと受けて来た。
だというのに、妹はそれに不平を漏らし荒れるどころか、強く運命に立ち向かい、いつも双子の姉を気遣う誰よりも優しい子だった。
自分に選ばせて欲しいと言ったリィルの提案でしたコイントス。運命はリィルの帝国行きを確定させた。
『別にいい』
釘を刺すようなその言葉と、
『向こうで死んだとしても、それは私の運命というやつよ』
全てを受け入れ、諦めてしまったような天色の瞳がイザベラは忘れられない。
あのコイントスは自分の身代わりに危険な橋を妹に渡らせることに決めた姉が、少しでも気に病まずに済むように、というリィルの優しさだった。
と同時に悟った。もし、死ぬような目に遭ったなら、リィルは遺体すら遺さず消える気だ、と。
リィルがイザベラとして死ぬわけにはいかない。が、生死不明であればイザベラの身柄がクローゼアで保護されても誤魔化しがきくから。
リィルはそれほどの覚悟をしているのだと、分かっていたのに。
リィルに礼の一つも言えず、味方の一人も付けてやることすら出来ず、帝国に行く背をただ見送った。
何度も悔いたし、己の無力さを嘆いた。
だが、それももう終いだ。
「待っていて、リィル。もう少し、あと少しだから」
自分の身代わりとして行かせてしまった、双子の片割れを思い浮かべ拳を握りしめる。
冷酷無慈悲、まるで悪魔のようだ、と悪名高いオゥルディ帝国の皇帝陛下だが、彼に浮いた話はなく、おそらく"どうでもいい人間"には興味がない。
嫁いだあとのリィルの情報は入ってこないが、後宮で大人しく過ごしてくれていれば皇帝陛下に目をつけられることはないだろうし、嫌がらせを受けることはあっても命を脅かされることはないはずだ。
「まだ、取り戻せる」
ありとあらゆる情報を精査し、何度もシュミレーションを繰り返した。
リィルが身を犠牲にして作ってくれた時間を決して無駄にはしない。
「さぁ、そろそろ決着をつけましょうか」
天色の瞳は終結を見据える。
手に入らないモノなど何もないと自信に満ち溢れたそれは、クローゼアの"暴君王女"の姿だった。