赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

69.偽物姫の処方箋。

 煌めく星の輝きと白く吐き出された息で冬の訪れを感じる。
 デッキチェアで寝転んで見上げた月は、もうすぐ大きな円に達しようとしていた。
 澄んだ空気が頬を撫でる。

「……寒い、な」

「そんな格好で外に出れば寒いに決まっている」

 独り言としてつぶやいたセリフに返事があるなんて思っていなくて驚いている私の上にバサっと何かが落ちてくる。

「羽織っていろ」

「……あったかい」

 落ちてきたのは女性物の羽織で、綺麗な赤色をしていた。

「君はもう少し自分の身体を気遣うことを覚えろ」

「ふふっ、だって星空は冬の方が良く見えるのですもの」

 落ちてくるお小言も用意された羽織も。
 それが全部私だけのモノだなんて、とても贅沢で、幸せで。

「今日は遅かったですね、セルヴィス様」

 セルヴィス様の顔を見るだけで、寒さなんて忘れてしまいそうなくらい心が暖かくなった。

「遅れて悪かった。少々厄介事がな」

「厄介事、ですか」

 そこから先の言葉を待ったが、特にセルヴィス様から語られる事はなく。
 多分寵妃役()では関われない分野なのだろうなと察する。

「それほど忙しいのであれば、無理して来て頂かなくても」

 今日は対外的に円満である事を示すためのお渡りの日ではなく、私とセルヴィス様の非公式な密会の日。
 獣人の血のせいで満月に体調を崩すセルヴィス様に薬をお渡しする調整日だった。
 とはいえ、ほぼレシピが完成してしまった今では、薬をオスカー経由で渡してしまっても問題ないのだけど。

「腕利きの薬師殿に直接調整してもらった方が薬の効きがいいからな。……それに、俺が来なければ君は平気で一晩中でも待っていそうだから」

 現に約束の時間を30分も過ぎているのにまだいた、と時計を指したセルヴィス様は、

「天体観測も悪くないが、ここは冷える。場所を変えよう」

 そう言って私に手を差し出した。

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