赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜

72.偽物姫と逢引き。

 勢いだけで押しかけて来たのはいいものの。

「そりゃぁ、普通にいるわよね。護衛」

 満月の夜に人払いされていた時とは違い、建物の入り口にはがっつり護衛がたっていた。
 だって皇帝陛下の自室があるんだもの。当たり前よね、と肩を落とした私は部屋の方角に視線をあげる。
 カーテンが引かれ、一切明かりの漏れていない部屋。

「寝てる……よね。きっと」

 諦めよう、と小さくため息をついたところで、突然口元を覆われる。
 抵抗しようと私がもがくより早く、

「静かに。護衛に気づかれる」

 聞き覚えのある声が耳に届き、私は両手をあげる。
 そっと、手が外され振り返れば真っ黒なフードを被ったセルヴィス様がそこにいた。

「……どうして?」

「それはコチラのセリフだ」

 呆れたような声とともにポンっと大きな手が頭に落ちて来て、

「全く。クローゼアの暴君王女はお転婆が過ぎる」

 宮廷内だって安全とはいえないんだぞとお小言を言われた。

「ごめんなさい」

「まぁ、君が無事なら構わないが。何か話があるのだろう? 場所を移そうか」

 シュンと落ち込んだ私の髪をくしゃっと撫でたセルヴィス様は、優しく笑って手を差し出してくれた。


「まさか窓から入るとは思いませんでした」

 ここ3階ですよ!? と声を潜めて抗議する私に、

「窓から出て行ったのにドアから入るわけにはいかないだろう」

 何を言ってるんだとばかりに首を傾げるセルヴィス様。

「普通、こう隠し通路とかっ」

「窓からの方が早い」

 バレたことないし、とセルヴィス様は肩を竦める。
 ええ、びっくりするくらいの身のこなしでしたよ。どんな跳躍力してるのよ、と驚きを通り越して呆れてしまう。

「どこかにお出かけの予定だったのでは?」

「いや。ただ君の姿が見えたから」

 迎えに行っただけ、と微笑むセルヴィス様の色香に当てられてドギマギし、

「それは……その、お手間を……おかけして」

 しどろもどろになる私の髪を優しく撫でたセルヴィス様は、

「手間じゃない。やっと君に会えた」

 そう言ってとても嬉しそうに笑った。

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